クローン技術のヒトへの応用については国際的に規制の方向で進んでいる1)。例えば、イギリス、ドイツ、フランスでは、ヒトのクローン個体の作製を全面的に禁止している。日本でも、1998年7月の、学術審議会特定研究領域推進分科会バイオサイエンス部会による「大学等におけるクローン研究について(報告)」2)を受けて、同年8月に文部省が「大学等におけるヒトのクローン個体の作製についての研究に関する指針」を定め、大学等の研究機関でのヒトのクローン個体の作製に関する研究を禁止している。
また、1999年11月には、科学技術会議生命倫理委員会のクローン小委員会が報告書「クロ−ン技術による人個体の産生等に関する基本的考え方」を取りまとめ、(1)クローン技術を用いたヒト個体の産生には、人間の尊厳の侵害等から重大な問題がある、(2)キメラ個体やハイブリッド個体については、ヒトという種のアイデンティティを曖昧にする生物を作り出すものであり、更なる弊害を有するため、罰則を伴う法律等によって禁止するための措置を講ずるべきである、との考え方が報告されている3)。2000年3月現在、この報告書を受けて法制化(「ヒトに関するクローン技術等の規制に関する法律案(仮称)」)の準備が進められており4)、その骨子は以下の通りである。
・クローン人間の作製を試みる行為を禁じる。
・ハイブリッド(ヒトと動物の間で卵子と精子をかけ合わせることにより生まれた個体)を生む行為を禁じる。
・キメラ(ヒトと動物の細胞を融合させた個体)を生む行為を禁じる。
・いずれの違反者にも懲役または罰金を科す。
・出産に結びつかないクローン研究は原則禁止とするが、別に設けるガイドラインの条件の範囲内で認める。
・ガイドラインでは、事前に国への届け出などを求め、研究者に対し、国は立ち入り検査などを実施できる。違反者には罰金を科す。
一方、専門家の間では、人間のクローン研究は必ずしも全面的に禁止するのではなく、少なくとも胚段階までの研究は許容すべきだとの意見もある。特にヒトのES細胞を用いる治療法は臓器移植に代わる有効な方法になる可能性があり5)、日本でも、上記の法律案にもあるように、ES細胞を用いる研究(→Q46)については容認する方向にある。これまで、精子・卵子・受精卵を取り扱う研究については、昭和60年に日本産科婦人科学会で承認された会告に基づいて行われていたが、科学技術会議生命倫理委員会のヒト胚研究小委員会(科学技術庁)は、2000年3月に「ヒト胚性幹細胞を中心としたヒト胚研究に関する基本的考え方」をとりまとめた。この報告書では、ヒトのES細胞をはじめとするヒト胚を対象とした研究について一定の条件(
(1)ES細胞を作製する際に用いる受精卵を、不妊治療のために作られた体外受精卵で廃棄される余剰卵に限定し、不妊治療を終了または止めたあとに患者に打診、(2)ES細胞を作製する研究機関を当面は限定し、受精卵を提供する施設も個人情報を保護し、施設内審査委員会の承認を得る、など)を満たした場合には認める旨をまとめ、今後ガイドラインを策定する方向で検討を進めている5)。
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