Q19

Q19.	遺伝子組換え作物の栽培拡大に伴い、各地の野生種が失われ、遺伝的多様性が減少し、遺伝的脆弱性が増大する可能性についてどう考えればよいか

　World Watch InstituteのJ. Tuxillは、農作物の単一化、遺伝子組換え技術などの農業技術の進歩、及び農業の商業化により、野生種が失われつつあり、遺伝的多様性（一つの種の中で、地域個体群や個体が示す遺伝的な差のこと）が減少し、遺伝的脆弱性が増大する可能性があると指摘している1）、2）。

農業の進展と遺伝的多様性の消失

　人類の進歩とともに、農業分野における品種改良が体系的に進み、特定の食用植物の品種改良や栽培法が飛躍的に進んだ。その結果、日常生活で利用される植物種は大幅に減少し、野生種が絶滅した例も多い。
　現存の作物種でも、近代農業で利用される品種は大幅に種類が限定されている。例えば、北米の大豆やトウモロコシに至っては、数品種で全生産量の大部分を占めているという状況である。また、中国では小麦の栽培種が1949年では1万種だったものが70年代にはその10％に減少し、メキシコでもトウモロコシの栽培種が1930年と比べて、現在では20％に減少している。さらに、組換え作物の栽培とそれに伴う農業の商業化が、この傾向に拍車をかける可能性があることは否定できない。今後予想される環境変動などには、遺伝的多様性の維持は不可欠である。

モノカルチャーと遺伝子組換え作物

　前記のような遺伝的多様性の減少の一因が単一栽培（モノカルチャー）の拡大にあることは否定できないが、だからといって現在の農業のあり方を直ちに変更することは現実的ではない。そもそも農業自体がテクノロジーであり、安定した収量をコンスタントに達成するのを目的としている以上は、単一栽培の拡大はある程度不可避のことでもある。重要なことは、各地に残されている遺伝資源の現状を正しく評価し、近代的農業とのバランスを図っていくことではないだろうか。
　したがって、遺伝子組換え作物によって単一栽培が拡大すると一概には言えない。従来の品種改良によってできた品種であっても、大規模に栽培されればモノカルチャーを引き起こすし、また、遺伝子組換え作物であっても、それが生産者や消費者のニーズに合致していなければほとんど栽培されないと考えられる。

遺伝的多様性保全の必要性

　植物の遺伝的多様性を保全するため、文部省、農林水産省、通商産業省、環境庁などの研究機関を中心に、遺伝資源の保全、開発に関するプロジェクトが行われている。また、同様のプロジェクトを支援する国際機関や国際的なネットワークもすでに存在しており、このようなプロジェクトに期待するところも大きい。今後、遺伝子組換えなどの新たな技術を利用して豊かな作物の収穫を目指すとともに、遺伝的多様性の現状を見極め、その保全の重要性を啓発していく必要があるのではないだろうか。

1) 山田康之ほか、「遺伝子組換え植物の光と影」（学会出版センター）
2) ジェーン・リスラーら、「遺伝子組換え作物と環境への危機」（合同出版）

更新日： 2006年10月25日