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Q46. |
クローンの技術的な問題点が指摘されているが、クローン技術の利用と安全性の現状、及びその必要性についてどう考えればよいか |
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クローン技術には、受精卵クローン技術と体細胞クローン技術がある。受精卵クローン技術は、16〜32細胞まで分裂した受精卵から割球を分離し、除核した未受精卵と電気刺激により細胞融合させるものであり、こうして生まれたもの同士は遺伝的に同一である。一方、体細胞クローン技術は、乳腺などの体細胞の核を未受精卵に挿入するものであり、体細胞を提供したドナーと全く同一の遺伝子の組み合わせを持ったものが誕生することになる。
体細胞クローン技術により1996年に誕生したクローン羊ドリー1)は、テロメア(telomere:直鎖状染色体の末端部分)が通常の羊よりも短くなっているとの報道がある。テロメアの長さは寿命と関連しているという仮説もある。 |
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クローンをめぐる技術的な問題点 |
受精卵クローン技術は効率が悪いが、すでに技術が確立されつつある。日本でも1990年にはじめて受精卵クローン牛が誕生して以来、すでに500頭あまりの牛が誕生し、その肉や牛乳も出荷されている。
一方、体細胞クローン技術はいくつかの問題点が指摘されている。まず、現段階の体細胞クローン動物の成功率が非常に低い(クローンマウスで約2%)。これは、子宮環境の違い、レシピエント卵子の細胞質とドナー細胞核との不適合性、体外でクローン胚を培養することによる異常発生、胎子の成長を抑制する遺伝子の発現異常など種々の原因が考えられている。つまり、クローン技術は、必ずしも正常な胎子の出産を保証する技術ではないのが現状である。ただし、ドリーのテロメアが通常よりも短いといった報道については、テロメアの長さは普通の羊でもまちまちであることから、クローン技術の影響によるものかどうかは、科学的に明らかになっていない。
さらに、クローンで生じた個体から繰り返しクローンを作製し続けることができるか否かといったリクローンの問題もある。この点については、すでに国内外でリクローンによる個体が作出されているものの、今後もデータの蓄積が必要であり、クローン技術の安全性は、現段階ではまだ確立されていないと考えられている。 |
クローン技術の応用について |
上述した通り、クローン技術はまだ発展途上の技術であり、正常な胎子の出産を保証する段階には至っていない。また、当然のことであるがクローン技術のヒトへの応用は、倫理面で大きな問題をはらんでおり、技術的な安全性が確立されたからといって直ちに利用できるものではない。したがって、技術的な問題の解決とともに、倫理面について社会全体で十分に時間をかけて議論していく必要があろう(→Q37)。
しかしながら、優良な家畜個体の産出や動物製薬工場など、クローン技術のもたらすメリットもまた大きい。例えばドリーを開発したロスリン研究所では、胎子の細胞にヒトの治療薬として期待されている遺伝子(ヒトの血液凝固因子を発現する遺伝子)を導入した遺伝子組換えクローン羊のポリーが誕生し2)、クローン技術により遺伝子組換え動物の作出効率が約10倍程度高まることが明らかになった。また、ドリーが子孫を正常に残すことができることも確認されたことから、クローン技術の畜産業や医薬製造などへの貢献が大きく期待されている。
また一方で、ヒトのES細胞(胚性幹細胞:胚盤胞の内部細胞塊より樹立された細胞株)にクローン技術を応用する研究が注目されている。ES細胞は、自己複製能を持ち、種々の分化した細胞を大量に生産することが可能である。例えば、造血幹細胞への分化を誘導すれば、造血幹細胞の移植への応用の他、造血幹細胞から赤血球、白血球、血小板を生成し、新しい輸血医療、安全な血液製剤の供給、工場での血液製剤の製造などへの応用が考えられる。また、ES細胞から臓器形成を誘導できる可能性もあることから、医療面への貢献が大きいと考えられている。
以上のように、現段階で、クローン技術の安全性について多少の問題点はあるものの、その応用の可能性は非常に大きく、今後も研究を進めていくことが重要であると考えられる。 |
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1) I. Wilmutら、Nature, Vol.385, 810-813, 1997
2) A. E. Schniekeら、Science, Vol.278, 2130-2133, 1997
3) クローン技術研究会、「クローン技術」(日本経済新聞社) |
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