|
Q20. |
環境修復のために大量の遺伝子組換え体(例:耐乾燥性・耐塩性植物)を新たな環境に導入することにより、在来の希少種等が失われる可能性はないのか |
|
|
|
|
遺伝子組換え体の導入は生物学的侵入を人為的に引き起こし、生態系を破壊する危険性があるとの指摘が生態学の立場からなされることがある。その例として、生物防除の目的で外来生物を移入して在来種を防除した際の生態系への影響が挙げられることが多い1)。 |
|
|
遺伝子組換え植物の侵入危険度について |
一般的に遺伝子組換え植物や人為的に選抜された栽培種は、特定の環境(=人為的栽培環境)においては良好な発育を示すものの、野外環境下で野生種と競争させた場合、競争力が劣ることが多いとされている。
植物学者のParkerらが、遺伝子組換え生物の危険性評価について、遺伝子組換えセイヨウアブラナの具体例2)を挙げて論じた例でも、同様の結果が得られている3)。Crawleyらの実験では、野生型セイヨウアブラナ(Brassica
napus oleifera)、抗生物質耐性遺伝子を導入したセイヨウアブラナ、除草剤耐性遺伝子を導入したセイヨウアブラナ、野生のノハラガラシ(Sinapis
arvensis)の種子を圃場に埋め、2年後の生存種子数を調べた。種子の生存率は32.6%と野生植物が高いのに対し、遺伝子導入をしていないセイヨウアブラナでは0.5%、遺伝子組換えセイヨウアブラナでは0.1%という結果になった。また、遺伝子導入をしていないセイヨウアブラナと遺伝子組換えセイヨウアブラナを除草剤などを使わない環境で育て、どれだけの種子を作ったか調べたところ、違いがなかった。これらの結果は、野生環境では栽培植物の競争力は野生種に比べて低く、遺伝子導入によって直ちに適応度が高まることはないことを示している。 |
生物学的侵入に伴う影響の評価について |
前記の実験はあくまでも一例に過ぎず、この結果を遺伝子組換え植物全般に一般化するには時期尚早である。この問題については、個々の遺伝子組換え体の特性に応じて、遺伝子導入以前にその生物がどの程度侵入性を持つ生物なのか、また、遺伝子組換えによって母植物の侵入性に変化がもたらされる可能性があるかどうかを評価する必要がある。遺伝子導入による侵入性の変化については、野生化した場合に適応度(生存力、及び繁殖力)が高まるような性質が、遺伝子組換えにより付与されたかどうかを考慮しなければならない。以上のような評価の結果を積み重ね、侵入危険性について慎重に判断して行くことが重要である。 |
|
|
1) 鷲谷いづみ、「生物保全の生態学」(共立出版)
2) M. J. Crawleyら、Nature, Vol.363, 620-623, 1993
3) I. M. Parkerら、Biol. Conserv. Vol.78, 1, 193-203, 1996
4) 山田康之ら、「遺伝子組換え植物の光と影」(学会出版センター) |
|