Q31

Q31.	遺伝子組換え技術は一部の企業によって独占されており、遺伝子組換え作物の栽培拡大に伴って企業の食糧支配が強まるのではないか

　遺伝子組換え作物の栽培に伴う企業による食糧支配への懸念は多くの文献で指摘されている1)、2)、3)、4）。

遺伝子組換え技術の特許の特定企業への集中について

　現在、欧米の企業が種苗メーカーの買収・合併を繰り返すことにより、結果として遺伝子組換え技術の特許が特定のいくつかの企業に集中していることは事実である。その事実に対して、遺伝子組換え技術が独占され、企業の食糧支配が強まっているといった批判が生じることは、ある程度予想できることである。
　しかしながら、主要な基本特許の多くは、あと4、5年で期限切れとなる。また企業は、必ずしも遺伝子組換え技術の特許を一方的に支配し、高額な特許料を要求することにより利益を拡大しているわけではない。医学や農学の分野では、発展途上国の特定の要求に応じて特許を無償提供しているという長い伝統がある。例えば、モンサントがメキシコに対してウィルス抵抗性遺伝子を無償で提供し、メキシコはその遺伝子を利用してウィルス抵抗性ジャガイモを生産している。また、同様にパパイヤウィルス抵抗性遺伝子をタイやベネズエラなど多くのパパイヤ生産国に提供し、小さな農家でも使えるように品種を育成しているという例もある5）。

結論

　以上の点から、知的所有権や企業の独占に関する問題は非常に複雑である。しかしながら、現状では、企業にとって批判的な感情論がやや先行している傾向がある。したがって、企業は発展途上国に特許を無償提供しているといった前向きな事実を積極的に公開していくことが重要である。また、消費者の側も事実を冷静に受け止め、容認する点と反対する点を慎重に判断し、今後を見極めていく必要があるのではないだろうか。
　一方で、現在の遺伝子組換え植物は、高々2～3個の遺伝子を植物のどの部分でも、いつでも働かせるような制御配列（カリフラワーモザイクウィルスの35Sプロモーターなど）を入れて作ったものであり、染色体のねらった部位にいれることができない。次世代ではさらに精巧な制御法、遺伝子の安定した発現法、不要な遺伝子の除去法などの技術開発が必要となっている。つまり、開発競争はまだ始まったばかりであり、我が国の産官学の研究者は、巻き返しに必死の努力をしているところである。

1) 安田節子、「遺伝子組換え食品Q&A」（岩波書店）
2) 藤原邦達、「遺伝子組換え食品を考える事典」（農文協）
3) 大塚善樹、「なぜ遺伝子組換え作物は開発されたか」（明石書店）
4) ジャン＝マリー・ペルト、「遺伝子組換え食品は安全か？」（工作舎）
5) ノバルティスライフサイエンスフォーラム'99、「遺伝子組換え作物の可能性と課題」報告書
6) 朝日新聞社、「シンポジウム　バイオ世紀の生命観」

更新日： 2006年10月25日