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Q88. |
遺伝子治療とはどんな技術でどんな効果があるのですか。 |
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現在、遺伝子治療は臨床研究として末期ガンの患者などに対して、ほかに治療法がない場合のみに限定して行われており、発展途上の技術といえます。
遺伝子治療は患者の細胞に遺伝子を導入することにより病気を治療する方法のことを言います。傷ついた遺伝子や機能が失われた遺伝子の代わりに正常な遺伝子 を入れる方法と、病気の原因となる遺伝子の働きを抑える方法とに大別されます。
遺伝子の導入法には2種類あり、患者の細胞を取り出して、体外で目的遺伝子を導入した後、再移植する方法と患部に直接遺伝子を導入する方法とがあります。
遺伝子治療は、欠けている遺伝子を補ったり、有害な遺伝子の働きを抑えること ができるので、従来の対処療法では根治できなかった遺伝病やガンなどの根本的な治療法になる可能性があります。
なお、遺伝子治療は、遺伝子そのものを根本的に治療し、次世代へも影響を与える技術であると誤解されることがありますが、これは間違いです。現在の遺伝子治療はあくまで患者個人の世代にとどまるように、体細胞に特定の遺伝子断片を導入することによって病気を治す方法です。 |
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Q89. |
遺伝子治療はどのような病気に対して行われるのですか。また、これまでに行われた例はありますか。 |
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高血圧、ガン、糖尿病など人類の病気の大部分は遺伝子にかかわる病気です。 現在は、まだ、ごく一部の病気にしか遺伝子治療が行われていませんが、将来は
これらの病気の根本的治療方法として広い範囲で行われる可能性があります。
現時点での遺伝子治療の第一のターゲットは、特定の遺伝子の欠損が原因で起こる遺伝病です。具体的には、重症複合型免疫不全症(アデノシンデアミナーゼと いう酵素の欠損が原因)、家族性高コレステロール血症(LDL受容体の欠損症)などがあります。これらの病気は発生頻度が低い、比較的まれな病気です。
一方、遺伝子治療の次の応用として、ガン、アルツハイマー病、せき髄損傷、パーキンソン病などの神経疾患、循環器病、感染症に対する遺伝子治療が考えられています。
米国では、1990年に最初の本格的な遺伝子治療が行われたのを契機に、現在では数千件の遺伝子治療が行われています。日本では1995年に重症複合型免疫不全症の子供に遺伝子治療が行われました。その後、腎臓ガン、肺ガンに対する遺伝子治療が行われ、遺伝子治療が徐々に開始されつつあります。 |
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Q90. |
最近、海外で遺伝子治療による死者が出たという新聞記事を見ましたが、遺伝子治療の副作用などの安全性の問題はないのですか。 |
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現在、遺伝子治療は臨床研究として末期ガンの患者などに対して、ほかに治療法がない場合のみに限定して行われており、発展途上の技術といえます。米国で
行われた多数の臨床研究例(→Q89)でも、治療効果があったケースはまだ少なく、今後さらに研究が必要です。
質問の死亡例については、遺伝子を導入する際に使用したベクター(遺伝子の運び屋)がアデノウイルスというウイルスの一種で、これを規定以上に投与したこと が原因であると考えられています。したがって、これは遺伝子治療の安全性の問題ではなく、不適切な医療行為による死亡だと考えられます。
遺伝治療は研究段階にあるものの、21世紀には本格的実用化が始められることは確実であり、今後、安全性を含めた適切な治療法の確立が着実に進むと予想されます。 |
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Q91. |
遺伝子を改変することで次世代以降への影響はないのですか。 |
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遺伝子治療には、生殖細胞にDNAを導入する方法と体細胞にDNAを導入する方法とがあります。生殖細胞にDNAを導入すれば、そのDNAは次世代にも伝わりますが、生殖細胞への遺伝子治療は安全性と倫理面の問題から行われていません(→Q92
)。したがって現在行われている遺伝子治療は体細胞に遺伝子を導入する方法だけです。
体細胞にDNAを導入した場合、たとえ遺伝子を入れた細胞に問題が生じたと しても、その影響は患者自身にとどまり、次の世代に影響することはありません。 |
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Q92. |
遺伝子治療についての何かルールがあるのですか。 |
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世界でいち早く遺伝子治療の臨床研究が始まった米国では、1985年に遺伝子治療のガイドラインが制定され、遺伝子治療の手続きが定められています。
日本では平成6年医療機関を対象とした「遺伝子治療臨床研究に関する指針」 (厚生大臣告示)と大学を対象とした「大学等における遺伝子治療臨床研究に関するガイドライン」(文部大臣告示)とがあり、厚生省と文部省における合同での審査が行われています。
現在、遺伝子治療は臨床研究として末期ガンの患者などに対して、ほかに治療法がない場合のみに限定して行われており、発展途上の技術といえます。
両省における指針は、遺伝子治療の臨床研究の科学的安全性及び倫理性を確保し、適正な研究の推進を図ることを目的としているものです。このガイドラインの骨子は次の通りです。
- 遺伝子治療の対象疾患を、末期ガンなど生命を脅かす病気又は生活の質を著 しく損なう難治疾患で、他の代替法と比較して遺伝子治療臨床研究を実施することによるメリットがあると予想されるものに限定
- 治療目的以外の遺伝子導入の禁止
- 生殖細胞の遺伝的改変の禁止
- 遺伝子治療の有効性及び安全性の確保
- インフォームド・コンセントの確保 等
現在、日本の遺伝子治療はすべてこのガイドラインにそって行われています。 |
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