|
|
|
|
人間には23組46本の染色体があり、父親と母親から1セットずつ23組の染色体を受け継ぎます。46本のうち2本は性染色体で、男性ならXY、女性ならXXで、その他の44本は男女によらず持っている常染色体です。したがって、常染色体22組と性染色体がヒトの遺伝子の1セット(ゲノム)です。
ヒトゲノム計画は、ヒト染色体の遺伝情報(DNA配列、DNAについてはQ2を参照)をすべて解読し、染色体のどこにどんな遺伝情報が書かれているかを明らかにしようとする計画です。
ヒトの染色体には約30億という膨大な塩基対があり、その解読には膨大な時間と予算が必要です。まず1985に米国でヒト・ゲノム・プロジェクトが開始されたのを契機に、欧州、日本で計画がスタートしました。日本では、科学技術庁が1988年度から、文部省が1991年度からヒトゲノムに関連したプロジェクトを開始しました。
これら各国の取り組みを調整するために、1988年に国際的な非営利の研究者団体としてヒト・ゲノム解析機構(Human Genome Organization,HUGO)が発足し、国際研究の役割分担、研究費の調達、情報交換を支援しています。ヒトゲノム計画
はいまや国際的な大プロジェクトになっているのです。
なお、ゲノム解析には公的機関だけでなく、民間企業も活発に参入しています。セレラ社、インサイト社といった外国のベンチャー企業がヒト・ゲノム・プロジェクトを上回るペースでゲノム解析を進めているとの報道もあります。ヒトゲノムの研究は21世紀の産業基盤の基礎ともなることから、官民双方で研究が進んでいるのです。 |
|
|
Q81. |
ヒトゲノム解析とは何で、解析の結果、どのようなことができるようになるのですか。 |
|
|
|
|
ヒトゲノム解析は、ヒト染色体の遺伝情報(DNA配列)を読みとり、染色体のどこ にどんな役割の遺伝子が存在するかを明らかにすることです(→Q80参照)。その成果は、医療、産業面を中心に次のような分野にメリットがあると期待されています。
- 遺伝子の異常による疾患(遺伝病)や遺伝子が関与する疾患(ガン等)の原因解明とその結果に基づく診断・治療法の開発遺伝子レベルの個人差を考慮した治療法の開発(オーダーメード医療→Q83)
- 発生、分化、老化など人間の基本的生命現象の解明とそれによる新しい医療の開発
- 人間の物学
- 進化過程の解明
- 基礎生
- へのデータ提供
|
|
|
Q82. |
ヒトのゲノム解析はどのくらい進んでいるのですか。 |
|
|
|
|
ヒトのゲノム解析は、ヒトゲノム計画(→Q80)に基づいて急速に進んでいます。
1999年末現在、ヒトゲノムのうちDNA配列が決定されたのは、約10%程度と考えられています。最近では慶応大学の清水信義教授らも参加したグループでヒトの22番染色体の全DNA配列が決定されました。
2000年代のはじめにはヒト染色体の全DNA配列が決定されると予想されています。完了時期については様々な予想がありますが、HUGO計画によれば2003年頃には全DNA配列が決定されると思われます。
ただし、DNA配列を決めただけでは、その遺伝子がどんな機能を持っているかは分かりません。DNA配列を解読した後は、その遺伝子の機能を解析するという次のステップが待っています。この機能がわかることが、医薬品や治療法の開発に役立ちます。 |
|
|
Q83. |
オーダーメード(テーラーメード)医療とは何で、どんなメリットがあるのですか。 |
|
|
|
|
オーダーメード医療は、DNA配列の個人レベルの違いに合わせた医療のことで、 テーラーメード医療、個人医療(personalized
medicine )と呼ばれることもあります。
ゲノム解析によってヒトの病気の原因となる遺伝子の解明が急速に進みますが、それにともない個人のDNA配列の違いが疾患とどのように関係しているのかが明 らかになります。DNA配列が1つだけ異なる違いをSNPs(スニップ)または一塩基多型と呼びますが、SNPsの中には特定の病気へのかかりやすさや薬の副作用の強さを決めるものがあることが知られています。オーダーメード医療はこのようなDNA配列の違いをもとにその患者にあった治療方法を選択します。
例えば、いままではガン細胞としてひとまとめにされていたものを、遺伝子レベルでさらに細かく調べて分類し、患者一人一人のガン細胞の特徴に応じた最適な医療を行うことができます。これにより従来の抗ガン剤や放射線治療による副作用も
大きく減らせると考えられます。 |
|
|
Q84. |
個人の遺伝子を解読することにより、性格、能力、寿命などその人の一生を予測できるようになるのですか。 |
|
|
|
|
最近では、ガンの遺伝子、肥満の遺伝子、記憶に関連する遺伝子など、たくさんの遺伝子が発見され、遺伝子ですべてが決まるかのように言われることがあります。
しかし、生物には先天的に遺伝子で決まる部分と後天的に環境の影響を受けて決まる部分とがあり、この2つを分けて考える必要があります。
まず、遺伝子で決まる部分については、個人の遺伝子が解読されるようになると、特定の疾患に関わる遺伝子の有無などがかなり正確に分かるようになるでしょう。これにより病気が発症する前に予防的手段を講じることも可能になります。
しかし、遺伝子がすべて解読されても、その人の一生を予測することはできません。一卵性双生児が同じ遺伝子をもちながら全く別の個人として一生を歩むように、人間は自分のもっている遺伝子をベースに後天的に環境からのさまざまな影響を
受けて生きていきます。遺伝子解読により分かるのは、個人の生物学的基盤となっている遺伝子の部分だけなのです。
なお、個人の遺伝子の解読と関連して、ゲノム解析により個人の遺伝的異常がすべて分かってしまうのではないかという懸念がありますが、すべての人間は遺伝子異常をたくさんもっており、遺伝的に全く異常のない人間はいないと考えられていま
す。遺伝子を解読することにより、遺伝子の正常、異常といった従来の考え方は当てはまらなくなり、むしろ多数派、少数派というとらえ方に転換していく可能性もあ ります。遺伝子の解読は、わたしたちの病気や人生に対する見方を変える可能性ももっているのです。 |
|
|
Q85. |
個人の遺伝情報が解読されることはプライバシーの侵害につながるのではないですか。また、そのような遺伝情報が勝手に利用されないような対策はありますか。 |
|
|
|
|
個人の遺伝情報には、その人が持っている病気の遺伝子についての情報などが記録されているので、医師が患者の病気について守秘義務があるのと同様に、その情報管理には細心の注意が必要になると考えられます。
日本では遺伝子診断、遺伝子治療が始まったばかりで、遺伝情報のプライバシー保護についての共通ルールは今のところありません。基本的には各医療機関の倫理委員会で管理することになっています。
ただし、関連省庁が遺伝情報の利用について指針(ガイドライン)を設ける方向で検討を進めており、厚生省では、厚生省の助成を受けて行われる研究を対象として、研究機関が倫理委員会を設置したり、情報の漏洩を防止するための情報管理者をおくことなどを盛り込んだ指針(ガイドライン)案を検討中です(→Q96)。 |
|
|
Q86. |
個人の遺伝情報の解読により、就職にあたっての差別、生命保険への加入拒否などの問題は生じませんか。 |
|
|
|
|
米国では1991年に保険会社が遺伝子検査の結果によって、加入を拒否するというケースがありました。また、大学卒業時の就職でも遺伝子診断の結果、就職を断られるという問題が生じました。
米国ではこのような事態を受けて、約20州で保険加入などにおける遺伝子差別の禁止法が制定されており、現在法案審議中の州もあります。また、1996年には団体加入保険については、遺伝情報の要求を禁止する法律が成立しています。
このような議論の高まりを受けて、クリントン大統領が、2000年2月8日に連邦政府の職員の採用や昇進に当たって、遺伝情報による差別を禁止する大統領令に署名しました。クリントン大統領はさらに遺伝子差別の禁止を民間に対しても適用す
る法律の制定や、遺伝子診断による個人の保険加入拒否を禁止する法律の制定を議会に求めました。
現在日本ではこのような問題は顕在化していませんが、今後きちんと議論する必要があると考えられます。 |
|
|
Q87. |
ヒトの遺伝情報は人類共通の財産だと思いますが、ゲノム解析の結果を利用して民間企業が特許を取得したりするのは問題がありませんか。 |
|
|
|
|
従来の天然化学物質の取り扱いと同様にヒトの遺伝子について、民間企業がその特許を取得することが問題であるとは一概に言えませんが、一部民間企業がそれを独占することについては専門家の間でも問題点が指摘されています。
ヒトの遺伝子の解析とその機能の解明は、遺伝子レベルで生命の仕組みを解き明かすことにつながり、これまで治療法のなかった病気を治せるようになったり、 病気の発症を事前に予防することができるといったことが期待されます。一方、
特許制度は発明を一定期間保護し、その利用(発明の公開と実施を通じて、公衆に発明利用の道を提供する)を図ることにより、研究者や技術者の発明意欲に刺 激を与え、新技術の誕生や開発を育成するものであり、研究開発に多くの投資が必要な医薬品メーカー等にとっては極めて大事な制度といえます。ゲノム解析がこれだけ早く進められるようになったのも遺伝子が従来の天然化学物質と同様に特許の対象となるところが大きいかと思われます。
ところで、現在行われているゲノム解析は、配列情報の解明に主眼が置かれており、その機能解明はまだ手つかずの部分が多いと予測されています。したがって、「有用な機能がない限り遺伝情報に対しては特許を認めない」こととしている日米欧特許庁の申合せからすると、特許が成立する見込みは低いものと考えられます。しかし、全ての遺伝子が一部民間企業に特許として独占され、新技術の誕
生や開発等に支障を来すのであれば、ヒトの遺伝情報は人類共通のもの(財産)との考えや上記特許制度本来の趣旨に反することとなりますので、何らかの法的、行政的措置が必要かと考えられます。 |
|