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Q73. |
バイオレメディエーションとは何ですか。具体的にはどのような例があるのでしょうか。 |
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バイオレメディエーション(Biotremediation)とは、生物が持つ化学物質の分解能力、蓄積能力などを利用して、汚染環境を修復する技術で、重金属や有機化合物による土壌汚染や海洋汚染の浄化に用いられます。また、有機溶剤、木材防腐剤(クレオソート等)、殺虫剤、火薬の浄化なども対象となります。
具体例としては、微生物による原油の除去があります。原油を構成している成分の中には、普通の微生物では分解できないものが多くあります。しかし、原油中でも生育できる原油分解
菌は、地球上のほとんどの海域でごく一般的に生育していることが明らかになっています。原油分解菌は、原油を水に溶けるような小さな油滴にして、水と二酸化酸素に完全に分解します。
1989年にアラスカで起きたタンカーの座礁により流出した原油の処理では、海岸に微生物の栄養分を散布して原油を分解する微生物を増殖させ、原油の除去が行われました。
他には、ドライクリーニングや金属の洗浄に使われたトリクロロエチレンの微生物による分解 も注目され、現在、財団法人地球環境産業技術研究機構(RITE)等により千葉県で実証試験が行われている最中です(http://www.rite.or.jp/Japanese/gaiyou/prj-j/soil-j.html 参照)。
また、PCB(ポリ塩化ビフェニル)の微生物による分解の研究も進められています。PCBは、非常に分解されにくい、人工的に合成された化学物質ですが、現実には多くの分解菌が発見されています。これらの分解菌も、PCBを水と二酸化炭素に分解しますが、今までに見つかっているPCB分解菌はまだまだ能力が不十分な物が多く、強力な分解菌の探索や遺伝子組換え技術を用いて、PCB
の分解能力を高める研究などが行われています。
さらに、最近話題となっている、ダイオキシン類についても福岡県保健環境研究所と九州大学農学部や愛媛大学農学部などのグループで、それぞれダイオキシン類を分解できる白色腐朽菌
(キノコの一種)を見つけており、実用化に向け研究を進めています。 |
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Q74. |
バイオレメディエーションのメリット、デメリットは何ですか。 |
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既存の環境浄化法では、熱や光による分解処理や薬剤や活性炭などを用いた吸着処理などの物理化学的な処理が行われてきました。これらの処理方法は、高温にするための多くのエネルギーやコスト、また、浄化を行うための機械設備などが必要でした。
これに対してバイオレメディエーションは、生体反応をそのまま用いるもので、適当な条件を選べば、浄化を行う生物は現場で自然に増えていきます。したがって、バイオレメディエーションには次のようなメリットがあります。
- 常温・常圧のためエネルギーをあまり必要としない。
- コストが安い。
- 汚染の現場で、直接浄化を行うことができる。
- 操業中であっても、浄化を行うことができる。
- 広範囲にわたる汚染の浄化を行うことができる。
一方で、デメリットには、以下のようなものがあります。
- 浄化に時間がかかる。
- 高濃度汚染地では、微生物が死んでしまうので、適用することができない。
- 浄化の過程で、有害な物質が生成する可能性がある。
- 複数の汚染物質が含まれる場合の浄化が難しい。
国内で行われている環境浄化法のうち、バイオレメディエーションの利用は、約10%前後ですが、既存の環境浄化法と比較して、非常にコストが安く、効果も大きいことから、今後、ますます利用されるようになると考えられています。 |
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Q75. |
生分解性プラスチックとはどのようなものなのでしょうか。 |
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プラスチックは、合成樹脂のことを示す総称です。1968年にアメリカでセルロイ ドが作られたのが始まりで、その後、フェノール樹脂、ユリア(尿素)樹脂、ポリカーボネートなどたくさんの種類のプラスチックが開発されました。プラスチックの特性としては、成形が簡単で、大量に生産しやすく、軽くて耐水性や電気絶縁性に優れていて、腐らないことが挙げられます。
しかしながら、プラスチックの特性が、地球環境上は大きな問題になっています。 プラスチックを廃棄した場合、かさばることに加えて腐らないために、埋め立てて処分するのに多大なスペースが必要です。また、プラスチックを焼却処理すると地球温暖化の原因となる二酸化炭素やダイオキシン類などの有害物質が生じる可能性があります。
そこで、土中などで腐る、生分解性プラスチックの開発が進んでいます。このプラスチックは、環境中にいる微生物によって分解され、最終的には水と二酸化炭素に分解される性質を持っています。現在、でんぷん、セルロース等の天然成分
を主な原料としたプラスチックの開発が行われています。生分解性プラスチックは、生活用品は、もちろんのこと、農林水産業(農業用フィルム、漁網など)や食品産業で実用化されており、今後大いに発展が期待されます。 |
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Q76. |
他にどのような技術が環境問題に適用できるのでしょうか。 |
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環境保全型農業を行うために、環境への影響が少ない農薬、肥料がバイオテクノロジ ーを用いて生産されています。具体例としては、天敵昆虫、微生物など生物由来の農薬である生物農薬があります。生物農薬は、近年、特定の害虫だけを防除する微生物(Bt
剤)などを大量に生産することができるようになり、農薬として使用されています。また、バイオリアクターを用いて生産された環境保全型有機質肥料の研究も進んでいます。
また、環境浄化法として、植物が本来持つ環境浄化能力を用いたファイトレメディエーションと呼ばれる技術があります。バイオレメディエーションが「バイオロジー(生物学)」と「レメディエーション(浄化)」を合成した言葉であるのに対し、ファイトレメディエーションは「ファイ
トロジー(植物学)」と「レメディエーション」を合成した言葉です。例えば、アブラナ科の植物は、重金属を吸い上げる能力があることが知られています。また、今後、遺伝子組換え技
術により大気汚染物質や環境ホルモン類を浄化する植物が開発される可能性もあります。 さらに、乾燥に強い植物を開発して砂漠の緑化に用いることも可能ですし、メタノール
などの物質生産による省エネルギー化も可能で、現在研究が進んでいます。
以上の事例以外にも、今後、研究が進めば、ますます環境問題に適用できる技術が開発されることでしょう。
(用語) |
1.バイオリアクター |
酵素や微生物などを発酵槽の中で固定化して、連続的に反応させる装置を「バイオリアクター」といいます。 |
2.有機質肥料 |
有機質肥料とは、家畜のふん尿、作物の収穫くず、もみがら、生ゴミなどを発酵させて肥料にしたものです。有機質肥料は化学肥料などとは違って、用いることにより土が固くなったり、土地がやせるなどの影響がありません。
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Q77. |
環境問題以外にエネルギー・資源問題にもバイオテクノロジーが役立つと聞いたことがありますが、具体的にはどんな技術なのでしょうか。 |
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具体的には、まず、微生物を用いてエネルギーを産生する技術があります。例えば、畜産廃棄物や藻類を微生物の力で嫌気消化することによりメタンガスを作ることができます。このメタンガスはエネルギー源として利用できます。生ごみを微生物の力で好気性処理すれば、生ごみをコンポスト(堆肥)化することができます。この方法は、廃棄物問題の解決に大いに役立つ方法です。
さらに、発酵によりエタノールを作ることもできます。このエタノールをエタノール自動車に利用すれば、クリーンなエネルギー源として利用できます。さらに、光合成細菌を用いることにより水素を発生させることも可能です。水素は二酸化炭素を出さないクリーンエネルギー源です。
微生物を用いてエネルギーを発生させる研究は、技術的にはかなり確立していますが、コスト面で従来エネルギーに劣るために、一般的な実用化には至っていません。今後の研究が期待される分野です。
また、資源を採集する段階で微生物を利用することもできます。一部の微生物は鉄などの不溶性の重金属を水に溶けるような形(イオン)に変換することができるので、この反応を利用して鉱物資源を採取することができます。
このようにバイオテクノロジーはエネルギー・資源問題にも大いに役立ちます。
(用語) |
1.嫌気消化 |
微生物が、酸素のない条件(嫌気条件)で有機物を分解して、エネルギーを獲得する現象をいいます。 |
2.好気性処理 |
酸素のある条件(好気条件)で生育し、酸素呼吸を行う微生物を利用して、有機物を分解する処理をいいます。 |
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Q78. |
医薬品や化学品の製造にもバイオテクノロジーが使われているそうですが、どのようなものが作られているのですか。 |
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現在、バイオテクノロジーにより以下のような物質の生産が試みられています。使われている技術は、発酵、遺伝子組換え、細胞培養など多岐にわたります。これらの有用物質の生産は従来からの発酵技術と新しいバイオテクノロジーの組み合わせにより可能になったものです。
以下にバイオテクノロジーにより生産される有用物質をあげます。
- 医薬品:インシュリン、成長ホルモン、インターフェロン等
- その他生体関連物質:アミノ酸、ペプチド、タンパク質、ビタミン、フラボノイド、カロチノイド、アルカロイドなど
- 糖質:単糖、オリゴ糖
- 石油化学により生産されている化学品:酢酸、酪酸、乳酸、コハク酸、リンゴ酸、フマル酸、酒石酸、ブタノール、エタノール、アセトン、ブタンジオール、グリセリン
- 油脂、ゴム、炭化水素
2は、医薬品や機能性食品、調味料などの製造に用いられています。3は主と して食品産業で乳製品、低カロリー甘味料などに使われています。4、5は工業製品などに使用されています。
また、遺伝子組換え技術を用いて有効成分だけを含み副作用が少なく効果の高いワクチンの開発なども進められています。さらに最近では、生体内に微量にしか存在しない様々なタンパク質の構造と機能を解明し、遺伝子組換えで医薬品と
して応用するバイオ新薬の研究が進められています。
上記以外にも、バイオテクノロジーを用いた有用物質の生産に関する研究は、今後、ますます進んでいくと考えられています。 |
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Q79. |
これ以外にバイオテクノロジーは今後、どのような分野に応用されていく可能性があるのでしょうか。 |
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新たな分野としては、以下に示す分野が考えられます。
(1)新しい機能性食品や新素材の開発
- バイオテクノロジーを使った抗ガン性食品、アレルゲンが少ない食品などの機能性食品の開発
- 新しい天然色素がとれる花の育成
- 昆虫の製造する物質を利用した新しい人工皮膚の開発
これらについては既に一部実用化されていますが、今後も生物の働きと生体反応を利用して、付加価値の高い食品や新素材を開発することが期待されます。
(2)生物の持つ機能を利用した新しい機器の開発
- 病気を診断できる生体適合性バイオセンサー
- 体内で患部の治療を行うバイオマイクロマシン
- 微生物の運動機構をまねた超微小モーターなど
バイオセンサーは酵素反応を利用して化学物質の検出、定量などを行うもので、一部実用化されています。今後はバイオセンサーを生体内に埋め込んで病気の診断を行うことも考えられます。
また、微生物はそれ自体が微小な機械とも言えますが、細胞の微小な運動機構などを利用 した超小型の機械(マイクロマシン)の開発も期待されます。
(3)生物の情報処理機構をまねた新しい情報処理技術の開発
- 人間などの神経系をまねた計算機の開発(ニューロコンピュータ)
これらの技術はまだアイデア段階のものもありますが、今後の応用分野として大いに期待さ れます。21世紀はバイオテクノロジーの時代と言われますが、バイオテクノロジーは他の科学分野と連携しながら私たちに大きな恩恵をもたらしてくれると考えられます。
参考資料:
くらしのなかのバイオテクノロジー(農林水産省農林水産技術会議事務局) |
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