副作用の少ない薬を安定的に製造
微生物は味噌や酒、ヨーグルトなどを造りますが、薬を造るのも得意です。
その一つが抗生物質で、1928年にイギリスの細菌学者であるフレミングが、青カビから抗菌物質であるペニシリン(細菌に特徴的な細胞壁を壊して殺菌作用を示す物質)が作り出されていることを発見しました。そして今、「遺伝子組換え技術」を使って、酵母や動物細胞が人のホルモンなどを作っています。
現在、日本では700万人以上の糖尿病患者がいると言われています。糖尿病にはⅠ型とⅡ型があり、特にⅠ型糖尿病はすい臓のβ細胞というインスリンを分泌する細胞が壊れてしまい、血液中のブドウ糖がコントロールできなくなって、昔は必ず死んでしまう怖い病気でした。
日本でも糖尿病は昔からあり、源氏物語の主人公、光源氏のモデルと言われている藤原道長が糖尿病であったという話は有名です。
1921年にバンティングとベストによってすい臓からインスリンを抽出、1923年には初めてインスリン製剤が発売され、Ⅰ型糖尿病にとっては救世主となりました。しかし、当時のインスリンは、ウシやブタのすい臓から取り出されたものだったため高価で、また、多くの動物を犠牲にしなければならないうえに、人のインスリンとは違うことから副作用などの問題も多くありました。
その原因は、すい臓からインスリンを抽出する際に不純物が混じってしまったことや、ウシのインスリンでは3ケ所、ブタでは1ケ所が、ヒトインスリンとアミノ酸の配列と異なっていることが挙げられます。
1973年、大腸菌に外来遺伝子を人工的に組込み、その大腸菌は外来遺伝子に対応したタンパク質を造ることが初めて報告されました。これによってタンパク質を微生物で生産するという研究が加速されていきます。1979年には組換え医薬品第1号として、米国ジェネンテック社の研究者が世界で最初に大腸菌で生産させたヒト型インスリンが登場します。
しかし、日本で初めて承認された組換えインスリンは、ジェネンテック社とは異なる方法で生産されたものでした。それはインスリンが合成される時に作られるmRNAを利用して作ったもので、化学合成で遺伝子を作ったものではありません。
また、ヒト遺伝子から作ったインスリンは体の中の別の酵素で本当のインスリンとしての効果を示すことから、大腸菌で生産させた後に酵素で処理をして薬にしています。その後大腸菌ではなく酵母を使って製造する技術も発達しました。
現在は、抗ガン剤やホルモンなど数多くのタンパク質医薬品が発売されています。技術も進歩して、ヒト特有にタンパク質が修飾(糖鎖がついたり、リン酸がついたり)される必要がある医薬品は、ヒトに近い動物細胞で生産することができるようになりました。
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