第4回バイオインダストリー奨励賞受賞者の紹介
奨励賞受賞者10人から受賞内容とメッセージをいただきました
岩野 智 氏 (国研)理化学研究所 脳神経科学研究センター
「in vivoイメージングを革新する人工生物発光システムAkaBLIの開発と応用」
この度はバイオインダストリー奨励賞を賜りまして、大変光栄でございます。ご指導をいただいております先生方や先輩後輩や共同研究者の方々、基質を製造いただいている企業の皆様方に感謝申し上げます。私は生物発光を利用した技術開発を行っています。本研究では生物発光反応の核である発光基質と酵素をin vivoイメージングを指向して共進化させ、人工生物発光システムAkaBLIを開発しました。本技術により検出感度の劇的な向上を達成し、脳や肺等、生体深部にある極少数の標識細胞からのシグナルを感度良く捉えることが可能となりました。今後は生物発光を基盤としつつユニークな研究を推進できるように精進いたします。
大田昌樹 氏 東北大学大学院 環境科学研究科
「環境調和型バイオインダストリーを志向した新しい抽出分離技術の開発」
この度はバイオインダストリー奨励賞を賜り誠に光栄に存じます。選考委員や御指導いただいた先生方、共同研究者各位に厚く御礼を申し上げます。私は、将来的な持続社会やSDGsの推進に向けて、無害な溶媒を用いた抽出分離に関する研究を推進しています。関連する国内の法規制には医薬品の残留溶媒ガイドラインがあり、有害な溶媒の最終製品中の残留量が規定されていますが、近未来的にはこのような有害残留溶媒を発生させない環境での安心安全な抽出分離技術に対するニーズが高まると予想しています。我々が開発した超臨界二酸化炭素を用いた亜臨界溶媒分離技術はこのニーズに正に対応できることから期待を込めて研究を推進しています。
菊池義智 氏 (国研)産業技術総合研究所 生物プロセス研究部門
「昆虫の農薬抵抗性に関わる腸内微生物の発見とその生態・機能の解明」
この度はバイオインダストリー奨励賞を賜り、大変光栄に存じます。選考委員の先生方やご指導いただいた先生方、共同研究者の皆様、そして共に頑張ってくれた学生諸氏に心より御礼申し上げます。本研究では農業害虫の腸内マイクロバイオームに着目し、害虫の腸内に棲む微生物が殺虫剤の解毒に大きく寄与することを明らかにしました。また、害虫の腸内マイクロバイオームは特異的で単純な構成をしていますが、その成立機構についても研究しています。これからの農業には持続性の担保と環境負荷の低減が同時に求められていますが、害虫の腸内微生物を制御することで農薬の減量による環境保全と農作物の増収に同時に応えられると考えています。
久保田健 氏 (公財)地球環境産業技術研究機構 バイオ研究グループ
「微生物発酵を利用した再生可能資源からの高機能バイオマスプラスチック原料生産技術開発」
この度はバイオインダストリー奨励賞を賜り、誠に光栄に存じます。選考委員の先生方やご指導・ご支援いただきましたすべての皆様に心より御礼申し上げます。本研究では発酵生産に使用する微生物、コリネ型細菌における遺伝子発現制御機構の解明と、その知見をもとにした物質生産実証を行っております。再生可能資源である糖を原料とし、遺伝子組換えを施したコリネ菌を利用した発酵により、高強度ポリマーや医薬品の原料となる4-アミノ安息香酸を世界最高の濃度で生産することができました。今後も、実用化に向けてさらなる生産性の向上を目指して行きたいと考えております。
小宮 健 氏 東京工業大学 情報理工学院
「がんから感染症まで、誰もが高精度な診断を受けられる高感度核酸検出法の開発」
生物はDNAを遺伝情報の保存・複製に利用していますが、DNAは単なる記録用メディアではなく、ハードウエアの一部として機能しています。この機能を情報処理に利用する際に、情報を符号化したシグナルを増幅する手段が必要になります。このような発想でDNAを増幅する反応を設計し、等温で動作させた結果、医療診断のための高感度核酸検出法を実現することができました。風変わりな発想を評価してくださった選考委員の先生方、自由 に研究を実施させていただいた共同研究者の皆さまに深く感謝申し上げます。本賞を励みにして、DNAが持つ可能性をさらに探求するとともに産業応用へ注力し、バイオインダストリーの発展に貢献して参ります。
末次正幸 氏 立教大学 理学部
「染色体複製サイクル再構成による長鎖環状DNA 増幅技術とその応用」
栄誉ある賞をいただき大変光栄です。大腸菌染色体複製の基礎的な研究から、そのサイクルを試験管内で何度も自律的に繰り返すことに成功し、巨大なDNA(最大1Mb)を増幅する初の技術を生み出しました。独自に開発したDNA連結法と合せ、人工デザインされたゲノム等の長鎖DNAをセルフリーで構築することを可能とします。多様な分野への応用が期待され、最近では新型コロナウイルスゲノムに関する研究にも取り組んでいます。また、本技術をもとにバイオベンチャー(OriCiroGenomics(株))も起業しています。今後も、"基礎の探求" と"合成生物学の社会実装" の両輪で、地球規模の課題の解決に迫るような研究を目指していきたいと思います。
中島健一朗 氏 自然科学研究機構 生理学研究所
「味覚の脳内伝達とその調節を担う神経細胞・ネットワークの解明」
この度はバイオインダストリー奨励賞を賜り、大変光栄に存じます。また、選考委員の先生方・対象となった研究を支えていただいた多くの共同研究者に深く感謝申し上げます。私は脳内で味覚情報がどのように伝達されるのかに興味を持ち研究を行ってきました。その結果、特定の味の情報を伝える神経細胞が存在すること、食欲を生み出す神経の活動により脳内の味の感じ方が調節されること等を見いだしました。味覚は摂食行動を決定づける重要な要素であることから、今後、過食や食欲不振等の疾病における味覚の役割を解明し、それらの改善に貢献できるよう努力したいと考えています。
原良太郎 氏 京都大学大学院 農学研究科
「微生物酵素の探索を基盤とした有用化合物生産プロセスの開発」
この度はバイオインダストリー奨励賞を賜り、大変光栄に存じます。ご指導いただきました先生方、共同研究者の皆様、一緒に実験に取り組んできた多くの学生に心より御礼申し上げます。本研究では、多様な微生物の酵素機能を工業生産に役立てることを目標にしています。自然界から目的にかなう微生物酵素を探索し、医薬品原料として有用な化合物、特にアミノ酸誘導体およびアミド化合物の合成プロセスの開発を行いました。持続可能な社会の構築に向け、バイオテクノロジーを活用した化学産業の創出に対する期待はますます高まってきています。その中心的役割を担う微生物機能を開拓することで、さらなる産業応用を目指していきます。
福田淳二 氏 横浜国立大学 工学研究院
「毛包幹細胞の自己組織化培養法と毛髪再生医療への応用」
毛包は、誕生後も再生を繰り返すということからも、脱毛症に悩んでいる方が全世界に非常に多いということからも、魅力的な研究対象です。本研究では、工学的なアプローチで培養環境を制御することで、毛包原基が自発的に形成されることを発見しました。さらに、形成させた毛包原基は、生体内または生体外で毛包や毛幹を伸長させる能力があることを示しました。現在は、このアプローチをバイオインダストリーとして社会実装できるよう脱毛症患者由来の細胞を用いた研究に取り組んでいます。最後になりましたが、本研究を遂行するにあたってご指導・ご支援いただきましたすべての皆様に深く感謝申し上げます。
藤枝俊宣 氏 東京工業大学 生命理工学院
「生体接着性オプトエレクトロニクスによる革新的光がん治療システムの創製」
この度はバイオインダストリー奨励賞を賜り誠に光栄に存じます。本研究では、体内埋め込み型の発光デバイスを開発し、新しい光がん治療システムを世界に先駆けて実証しました。特に、生体組織に安定に発光デバイスを固定するための生体接着技術を開発したことがブレイクスルーとなり、生体内に埋め込んだ発光デバイスを無線給電にて作動させることで、光増感剤を持続的に活性化させることに成功しました。本研究成果は、光線力学療法の用途を拡大させる先進的な医療技術として期待されます。がんと闘う患者様やそのご家族、また、医療従事者の方々に本技術を一日も早く届けられるよう引き続き尽力して参ります。
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