培養支援技術・各種分析技術紹介
持続可能なバイオプロダクション産業の創出と発展に向けて、これまでに多様な化学品・医薬品の生産に特化した人工微生物を創出する技術が各国で開発されてきました。わが国でもスマートセルプロジェクトを通して、生物が持つ物質生産能力を人工的に引き出した細胞の構築基盤技術が開発されています。しかし、これらの人工微生物が、①大生産規模での培養、②工業用培地での培養、③ライフサイクルの環境や技術経済性への影響を想定して開発されることは稀でした。このため生産規模が拡大した研究開発ステージに進んだ段階で、根本的な技術変更が求められる「手戻り」が生じ、バイオ生産プロセス開発の促進を妨げてきた現状があります。「手戻り」の抑止には、ベンチスケールでの物質生産性を評価軸として探索・育種した微生物を用いて如何に工業化を図るかを考えるフォアキャスティング的な手法ではなく、産業化に必要な要件を満たす培養槽や培養条件を標準培養装置(条件)として予め策定し、当該培養装置内において満足いく機能発現が可能な微生物を探索・育種するというバックキャスティング的手法を採用することが重要だといえます。また、こうして探索・育種された株を培養するにあたり、最小限の実験から得られるデータのみで、最適な培養条件のみならず、当該プロセスの環境影響評価(LCA)までも可能となれば、バイオ生産プロセスの開発速度は飛躍的に向上するはずです。
本プロジェクトはこうした背景のもと、培養・製造プロセスと探索・育種プロセスを並行開発し、バイオ生産プロセスの開発期間を短縮することを基本コンセプトとして立案されています。プロジェクトでは標準培養装置・培養条件の定義を行うとともに、スモールスケールでの試験を行うだけで大規模スケールでの生産性能の予見が可能な技術基盤を構築します。また、培養試験やLCAの予測結果から微生物株の探索・育種指針を当該研究に携わる上流側の研究者へとバックキャスティング的に提示します。
具体的には、生産規模の異なる培養装置間における互換性(スケーラビリティー)が保証された培養条件を策定し、同条件下で取得した培養データを解析することで、「大量培養に適した微生物の選抜・育種指針の提示」「培地・培養の最適化」「LCA」が可能な技術基盤を確立します。異なるスケールの多連式培養槽で十分なスケーラビリティーが維持される培養パラメータ値の範囲を策定し、同条件内で様々な微生物株の培養サンプルを取得します。こうして取得した培養サンプルを先端オミックス解析技術に供することで、培養パラメータや培地成分などのインプットデータと代謝物濃度などのアウトプットデータとの相関を見出し、微生物選抜・育種や培地設計の指針となるパラメータを決定します。また、種々の培地を用いて取得した培養データを機械学習に供することで培地組成の最適化が可能なAIシステムの構築を行います。さらには、こうして得られた培養のインプット、アウトプットデータに加え、エネルギー消費量やCO2排出量などのインベントリデータを取得し、バイオ生産プロセスに特化したLCAシミュレーターを開発することに取り組んでいます。
本項目では、これらのことを踏まえた、バイオものづくりのための実用性評価支援(阪大)、人工知能を活用した微生物培地コンサルティング(北見工大)、培養状態の定量的記述技術(阪大・九大)の3つの技術を主に紹介しています。