技術紹介

データベース空間からの新規酵素リソースの創出

微生物を利用したものづくりは従来の化学プロセスに比べ、省エネルギーかつ低コストな物質生産を実現するポテンシャルを有しています。ゲノム情報に基づく代謝反応モデルを利用した合理的代謝設計技術と大規模な遺伝子組み換え技術の融合により、細胞の物質生産量や収率を向上させる研究開発が盛んに行われています。その際、生産ターゲットの生合成経路を構成する酵素の選定は極めて重要であり、酵素に求める性能としては、触媒効率(kcat/Km)と基質特異性の高さ、酵素の細胞内安定性の向上等が挙げられます。酵素そのものが商材になる場合は、使用および保管環境での安定性や、基質特異性の観点で、より高性能な酵素の開発が求められています。
従来、酵素選定はEC番号(酵素番号)に限定した手法が取られており、研究者や技術者の知識や経験に依存しています。一方で、酵素には非常に多くの種類があり(EC番号として7,500種以上)、それぞれの反応について、各生物種が特徴の異なる多種の酵素を有しているため、その数は膨大となり、酵素の選定は容易ではありません。特定のEC番号に限定した探索方法では、高活性型酵素や新規反応を取りこぼしている可能性があり、選定した酵素が期待通りの性能を示さないといった問題があります。そこで、将来に向けたバイオ生産のポテンシャルを拡大し、産業競争力を得る上では、進展著しいAI技術を活用してバイオ生産に資する新規活性を発揮する酵素や極めて高い活性を示す酵素を獲得していくことが重要です。そこで、反応特異性に基づいて酵素を分類し直し、各カテゴリーの中で優れた特性(広い基質特異性と高い触媒効率を併せ持つ)を有する酵素群を『テンプレート酵素』として体系化しておけば、新規の人工酵素の開発により、あらゆる生産ニーズに迅速に対応することが可能になると考えられます。
本研究開発では、バイオインフォマティクスによりデータベース空間を最大限活用し、バイオものづくりに資する新規酵素を体系的に獲得します。具体的には「反応特異性」の観点でデータベースから酵素候補をデジタル技術により選定し、基質特異性や触媒効率などの活性データをロボティクスを活用したハイスループット実験系で収集することで、データベース上の酵素をEC番号にとらわれずバイオものづくりの観点から再整理します。次に、改変の方向性を与える情報解析システムや分子進化システム(基質結合に伴う安定性を指標としたスクリーニング技術、微小ゲルビーズを活用した迅速酵素機能評価系)を活用することで、テンプレート酵素を鋳型にして産業レベルの性能を有する人工酵素を獲得します。最終的には競争力の高い酵素データベースを構築し、産業ニーズに対して迅速に有用酵素を創成する基盤技術を確立します。
情報解析とハイスループット技術を活用した独自のアプローチにより「テンプレート酵素」と「産業レベルの性能を有する人工酵素」を開発することで、新規反応の創出、非天然化合物の生産等の人工系を含め、様々な酵素創出ニーズに迅速に対応できることを示します。

最終更新日:2022年11月12日 23:35