医療、農業、環境などの分野で、遺伝子の研究成果が実用化されつつあります。近い将来、生命の謎へ深く迫ることもできるでしょう。
そのときますます重要になるのは、科学技術の研究だけを優先するのではなく、いかにして個人遺伝子情報を大切に取り扱うかという問題です。

遺伝子の情報が新たな未来を切りひらく
 人の遺伝子の研究が活発になったのは、1980年代に入ってからです。このころは、さまざまな技術を用いて、病気に関連する遺伝子の染色体上の場所を調べたり、その配列を調べたりする研究が盛んに行われました。しかし、人の遺伝子情報全体を網羅的に調べることはできませんでした。
 90年代に入ると、人の遺伝子情報全体を調べることが可能になり、

染色体
世界の研究者が協力して推進した「ヒトゲノム計画」*という遺伝子の調査・研究により、2000年までにそのほとんどが解読されました。
 現在も遺伝子の意味を探る研究が続いています。しかし、すでにわたしたちの身近なところで活用されている研究成果もあります。たとえば、遺伝子から病気の原因を探ったり、遺伝子を組み換えることで害虫に強い農作物をつくったりしています。

わたしのなかに広がる未来
 「ヒトゲノム計画」が基本的に成功したことによって、遺伝子研究は新しい次元へと進んでいます。最近は、解読された遺伝子情報をもとに1つ1つの遺伝子のはたらきについて解明が進み、人体に秘められた可能性が徐々に明らかになってきています。たとえば遺伝子には身体の特徴だけではなく、病気に関係するものもあることがわかるなど、大きな広がりを見せています。
 また、「地球で最初の生命は?」、「日本人はどこから来たのか?」といったこれまで謎とされてきた生物学や考古学の問題も、遺伝子の研究が進むにつれ、解明へと大きく前進しています。遺伝子研究は、地球と生命の謎を解く鍵を握っているといえるでしょう。
 遺伝子はわたしたちの可能性であり、遺伝子の研究は人間の可能性を広げてくれます。未来に向けてこれからの研究成果がどのように活かされていくのか期待したいものです。

未来について考えるべきこと
 遺伝子に含まれる1人1人の情報は「個人遺伝子情報」と呼ばれています。“個人”という言葉が入っているのは、遺伝子は自分にとってかけがえのない独自の情報であるということを強調するためです。実際、遺伝子研究に使われている協力者の遺伝子も、個人のプライバシーを最大限守りながら研究が進められています。
 こうした細心の注意が必要なのは、人によっては遺伝子情報に「ガンになりやすい」「将来アルツハイマー病にかかりやすい」といった将来の健康にかかわる要素も含まれているからです。そうした情報が漏れたり、無造作に使われたりすると、人権侵害などのさまざまな問題が起きてしまう危険性があります。
 研究者は、個人遺伝子情報を大切に扱わなければなりません。同時に、わたしたち自身も個人遺伝子情報をかけがえのない「命の設計図」として理解し、自分の個人遺伝子情報を尊重していく必要があります。

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