第8回バイオインダストリー奨励賞受賞者の紹介
稲垣 奈都子氏(東京大学 大学院工学系研究科 助教)
「中皮前駆細胞に着目したマルチファンクショナル術後癒着防止材の創生」
この度は、バイオインダストリー奨励賞を賜り大変光栄に存じます。審査員の先生方、ご指導を賜りました多くの先生方、支えて下さった皆さまに心より御礼申し上げます。私は、肝がんに対する治療法の中で生存期間の延長や根治を期待し得る方法として広く施行されている繰り返し肝切除の2 つの問題「術後癒着」と「残存肝の再生能低下」の解決に取り組んできました。一連の研究を通して、中皮前駆細胞に着目し、iPS 細胞からの分化誘導法も確立し、上記の2 つの問題を解決できることを見いだしました。多くの患者さまだけでなく、医療現場で働く方々に貢献できるように早期臨床応用実現化・社会実装の実現化を目指して今後も精進してまいります。
小山内 崇氏(明治大学 農学部 専任准教授)
「ラン藻の転写と代謝の改変によるバイオプラスチック生産」
初めに、大変栄誉ある賞をいただき、深く感謝申し上げます。ラン藻などの微細藻類が二酸化炭素を有用な化合物に変換する能力に着目し、Synechocystissp. PCC 6803 の発酵により細胞外にカルボン酸が放出されることを発見しました。この発見により、二酸化炭素をコハク酸や乳酸などの食品・バイオプラ原料へと変換できる可能性が示唆されました。我々の研究は、様々な藻類の発酵や藻類の培養方法の開発、さらにはベンチャーを立ち上げて企業の方々と社会実装に取り組むという幅広い展開を迎えています。今後は自他ともに面白いと思える研究を進めることを忘れずに、持続可能な社会の実現に貢献していく所存です。
神谷 真子氏(東京工業大学 生命理工学院 教授)
「革新的バイオイメージングを実現する高精度化学プローブの開発」
この度は、バイオインダストリー奨励賞を賜り大変光栄に存じます。ご指導・ご支援いただきました先生方、一緒に研究を進めてきた研究室の皆さん、ご審査いただいた先生方・関係者の皆さまに厚く御礼申し上げます。私は、色素分子を精緻に機能化することで、画期的なバイオイメージングを達成し得る化学プローブ(蛍光プローブ・ラマンプローブ)を設計・開発しています。これまでに、従来法を凌駕する性能でのがんイメージング、超解像イメージング、ラマンイメージングを実現するプローブの開発を行ってきました。今後も、新たな化学プローブの開発を通じて、バイオイメージング法の拡張ならびに科学技術の発展に貢献することを目指します。
川井 隆之氏(九州大学 大学院理学研究院 准教授)
「次世代創薬を加速する超高感度キャピラリー電気泳動分析技術の開発」
この度はこのような栄えある賞を賜り、大変光栄に存じます。これまでご指導を賜りました先生方、そして研究を支援下さった皆さまに心より御礼申し上げます。私はこれまでキャピラリー電気泳動という分離法において、電気的に対象分子を収束させてシグナル強度を向上させる技術を開発することで、世界最高感度のバイオ分析を実現してきました。この分析システムにより、従来技術では困難だった一細胞メタボローム分析、組織ミクロスケール薬物動態解析などを実現しています。今後はさらに応用研究を幅広く展開し、医療・創薬を中心に一層社会へ貢献できるよう精進してまいります。
鈴木 道生氏(東京大学 大学院農学生命科学研究科 教授)
「炭酸カルシウムのバイオミネラリゼーションの形成メカニズム研究と脱炭素技術の開発」
バイオインダストリー奨励賞という栄誉ある賞を頂戴し、誠にありがとうございます。このような賞を受賞させていただくことができたのも、ご推薦いただいた先生方、審査の先生方、指導頂いた先生方、そしてこれまで研究でご一緒させていただいた共同研究者やラボのメンバーのおかげかと思います。厚く御礼申し上げます。生物が炭酸カルシウムを生成するバイオミネラリゼーションのメカニズムを有機-無機の両方の側面から追求する研究を進めることで、様々な新たな因子、反応、特徴的なミネラルなどが見つかってきました。このような研究成果により炭酸カルシウムを高効率に自在に人類が生成できる技術につなげたいと思っています。
中嶋 智佳子氏(名古屋市立大学大学院医学研究科 特任助教)
「脳傷害における人工足場マテリアルを用いた神経再生・脳機能回復促進方法の開発」
この度は、バイオインダストリー奨励賞を賜り大変光栄に存じます。審査いただきました皆さま、先生方に感謝申し上げます。本研究を推進するにあたり、ご指導ならびにご支援いただいております皆さまに、厚く御礼申し上げます。私は、傷害を受けた脳にバイオマテリアルを移植して、失われた神経細胞と脳機能を再生する方法を開発しました。脳の損傷部に神経細胞が広く分布することを可能とする再生促進因子を含むバイオマテリアルを活用して、脳機能の回復を施す治療法です。本研究で提案しました脳傷害治療法が、難治性脳傷害への回復の一助となるよう、今後もさらなる研究開発に努めてまいります。
永野 惇氏(龍谷大学農学部 教授)
「野外環境におけるトランスクリプトーム変動の解明・予測とその応用」
この度は、バイオインダストリー奨励賞という栄誉ある賞を頂戴し、誠に光栄に思います。研究室メンバーをはじめ、ご指導・ご支援をいただいている全ての皆さまに厚く御礼申し上げます。本研究では、野外におけるトランスクリプトームの大規模測定と気象データとの統合解析手法(野外トランスクリプトミクス)を確立し、複雑に変動する野外環境に対する植物の応答を網羅的に明らかにしました。また、気象データからの遺伝子発現の予測や、量的遺伝学を併用した設計が可能になりました。今後は、実環境下における生物の応答を予測、設計、制御するための汎用的な方法論の確立をめざして、さらに研究を進めたいと考えています。
藤井 壮太氏(東京大学 大学院農学生命科学研究科 准教授)
「植物の交雑資源拡大に向けた受精前障壁メカニズムの研究」
この度はこのような栄誉ある賞を賜り大変光栄に思います。審査いただいた先生方、本研究に携わって下さった研究室メンバーや共同研究者に感謝御礼申し上げます。私の研究は植物の種と種の間にある受精前障壁のメカニズムを目指すもので、これまでにこの生物現象に関わる分子群を新規に明らかにしてきました。今後は新しい作物開発に向けた基盤技術となることを目指し、さらなる基礎メカニズムの解明と応用研究を推進したいと考えています。
堀 武志氏(東京医科歯科大学 生体材料工学研究所 助教)
「医薬品の胎児への移行性評価に資するヒト胎盤バリアモデルの開発」
この度はバイオインダストリー奨励賞という栄えある賞をいただき、大変光栄に存じます。審査員の先生方、共同研究者の先生方、学生の皆さんに心より感謝申し上げます。私は創薬の効率化を目的とした新しい薬効・毒性評価試験の開発に興味を持ち、研究を進めてまいりました。特にヒトの細胞を利用した薬効・毒性評価系は、実験動物を用いた従来の試験を部分的に代替する可能性があり、創薬の効率化が期待されています。本研究では、物質が胎児に与える影響を評価するための胎盤細胞培養モデルを開発致しました。今後は、このモデルを実用化し、胎児への副作用を抑えた医薬品の開発につなげることを目標としています。
松井 大亮氏(公立千歳科学技術大学 理工学部 准教授)
「生化学と異分野技術の融合による可溶性発現技術の開発」
この度はバイオインダストリー奨励賞を受賞することができ、大変光栄に存じます。これまでご指導いただいた先生方、共同研究者の皆さま、そして共に努力してくれたスタッフや学生の皆さんに心から感謝申し上げます。本研究では、沈殿して不溶化する酵素のアミノ酸配列の一部を別のアミノ酸に置き換えることで可溶化させ、目的の酵素を効率よく生産する方法を見いだしました。また、統計解析や機械学習を活用し、変異部位をより迅速に予測できる手法も確立しました。今後も、化学工業および医療産業に有効に活用される産業用酵素の開発に関連する技術開発を進め、微力ではございますが、ホワイトバイオテクノロジーの普及に貢献していく所存です。
三浦 夏子氏(大阪公立大学 大学院農学研究科 准教授)
「出芽酵母細胞内における解糖系酵素集合体の発見とその解析・利用に関する研究」
この度は栄誉あるバイオインダストリー奨励賞にご選出いただき、大変光栄に存じます。審査員の先生方、これまでにご指導・ご支援をいただいた先生方、本研究に携わっていただいた皆さまに厚く御礼申し上げます。本研究では、酵母の解糖系代謝をつかさどる酵素群が、培養条件(低酸素)に応答して集合体を形成することを初めて見いだしました。また、集合体の形成原理の一端を明らかにするとともに、その原理を利用して細胞内で人為的に酵素集合体を形成させ、特定の代謝経路の効率を高めることに成功しました。今後は多様な細胞の内部において、酵素集合体を自在に操ることで細胞の代謝を操作し、ものづくりに貢献できる研究展開を目指して邁進する所存です。
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