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【ニュースリリース】第8回「バイオインダストリー大賞」「大賞 特別賞」受賞者決定!

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一般財団法人バイオインダストリー協会

第8回「バイオインダストリー大賞」「大賞 特別賞」受賞者決定!

  (一財)バイオインダストリー協会(会長:吉田稔)は、「ロドプシンの構造と機能の解明に基づく視覚再生への展開」の業績に対して、神取秀樹氏(名古屋工業大学大学院工学研究科 特別教授)に第8回「バイオインダストリー大賞」を贈ることを決定しました。
 また、バイオインダストリーの発展のため新しい分野を拓くことに貢献をした、河内幾生氏を代表者とする(一社)再生医療イノベーションフォーラム活動グループによる「再生医療周辺産業の国際標準開発とそれに基づく製品認証制度の構築」の業績に対して、第8回「バイオインダストリー大賞 特別賞」の授与を決定しました。

 「バイオインダストリー大賞」は、2017年、(一財)バイオインダストリー協会が30周年を迎えるのを機に、次の30年を見据えて "最先端の研究が世界を創る―バイオテクノロジーの新時代―"をスローガンにスタートしたもので、バイオインダストリーの発展に大きく貢献した、または、今後の発展に大きく貢献すると期待される顕著な業績を表彰し、今年で8回目となります。

 東京工業大学 名誉教授・元学長 相澤益男氏を選考委員長とし、15名の委員からなる選考委員会による厳正な審査を経て、大賞受賞者1件、大賞 特別賞受賞者1件を決定しました。

 なお、贈呈式・受賞記念講演会は来たる10月9日(水)、国際的なバイオイベント"BioJapan 2024"の会場(パシフィコ横浜)にて行われます。詳細につきましては、追ってご案内いたします。

バイオインダストリー大賞 受賞者

(敬称略)

受賞者 所属・役職
神取 秀樹 名古屋工業大学 大学院工学研究科 特別教授
名古屋工業大学 オプトバイオテクノロジー研究センター センター長

<受賞業績>

「ロドプシンの構造と機能の解明に基づく視覚再生への展開」

 神取秀樹氏は、超高速分光法や赤外分光法を用いて、動物や微生物ロドプシンの光受容メカニズムを解明する基礎研究を進める中で、新しいロドプシンを発見するとともに、画期的な機能創成に成功しました。具体的には、光駆動ナトリウムポンプ、内向きプロトンポンプ、新規チャネルロドプシン、酵素ロドプシン、ヘリオロドプシンの発見および光駆動カリウムポンプ、光駆動セシウムポンプ、キメラロドプシンの機能創成を達成しました。
 中でも、新規チャネルロドプシンおよびキメラロドプシンは、基礎研究から視覚再生への応用展開に至ったツールとして特筆されます。視細胞が壊れて失明に至る網膜色素変性症に対して、チャネルロドプシンの遺伝子治療による視覚再生が大きな期待を集めていますが、現状では室内照明のもとで働かない、という問題点がありました。神取氏が発見・創成した2つのロドプシンは、それぞれ独自のメカニズムで高い光感度を実現しており、その優れた特性を活かした視覚再生ツールとして治療への臨床応用に道を拓いています。すでにそれぞれのロドプシンに関するベンチャー企業が設立され、企業独自の取組も展開されております。
 神取氏の功績は、ロドプシンの光受容メカニズムを解明する基礎研究に基づき、視覚再生への医療応用に道を拓く新規ロドプシンの発見・創成に成功したものであり、国内外のバイオインダストリーの発展に大きく寄与すると期待され、バイオインダストリー大賞にもっとも相応しいと高く評価されました。

バイオインダストリー大賞 特別賞 受賞者

(敬称略)

受賞者 所属・役職
河内 幾生 (一社)再生医療イノベーションフォーラム 標準化委員会 委員長
菖蒲 弘人 (一社)再生医療イノベーションフォーラム
サポーティングインダストリー委員会 副委員長
柳田 豊 (一社)再生医療イノベーションフォーラム 事務局 事務局員

<受賞業績>

「再生医療周辺産業の国際標準開発とそれに基づく製品認証制度の構築」

 (一社)再生医療イノベーションフォーラム(FIRM)の活動グループは、ISO/TC 276/WG 4(Biotechnology - Bioprocessing)において、再生医療の周辺産業分野である製造補助材料、製造装置、消耗品、包装材料、輸送に関わる国際標準を主導して開発しました。
 これら国際標準の開発においては、対象製品・サービスの供給者及び使用者それぞれに対する要求事項を明確に規定し、ISO/IEC 17067(適合性評価−製品認証の基礎 及び製品認証スキームのための指針)を踏まえた認証スキームオーナー及びISO/IEC 17065(適合性評価−製品,プロセス及びサービスの認証を行う機関に対する要求事項)に適合させた認証機関をFIRM内に設立して、これらの標準群に基づく製品認証制度を構築し、再生医療の産業化促進策を講じています。
 この再生医療周辺産業の認証制度は、日本が世界に先駆けて実現したもので、本制度が広がることで、再生医療の基礎研究から実用化検討、製造化まで一貫性を持たせることが可能となり、再生医療の産業化が促進されるとともに、国内の対象製品・サービスの輸出促進につながることが期待されます。本業績は、再生医療の産業化促進に極めて有効な施策であり、バイオインダストリーの発展のために新しい分野を拓き、新しい価値を創出するものと期待できるもので、バイオインダストリー大賞 特別賞の趣旨に相応しいと評価されました。

大賞選考委員会(五十音順、敬称略)

(委員長)
相澤 益男     東京工業大学 名誉教授・元学長、(公社)科学技術国際交流センター 会長

(委員)
大隅 典子     東北大学 副学長、東北大学 大学院医学系研究科 教授
太田 明徳     中部大学 監事、東京大学 名誉教授
片岡 一則     (公財)川崎市産業振興財団 ナノ医療イノベーションセンター 副理事長/センター長
久保庭 均    中外製薬(株) 顧問
五條堀 孝    アブドラ国王科学技術大学 特別栄誉教授
辻村 英雄     川崎重工業(株) 社外取締役
松田 譲     (公財)加藤記念バイオサイエンス振興財団 名誉理事
松永 是     (国研)海洋研究開発機構 アドバイザー
宮田 満     (株)宮田総研 代表取締役
三輪 清志     (一社)バイオ産業情報化コンソーシアム 顧問
室伏 きみ子    ビューティ&ウェルネス専門職大学 学長
          お茶の水女子大学 名誉教授・前学長
吉田 尚弘     東京工業大学 地球生命研究所 フェロー・名誉教授
         (国研)情報通信研究機構 上席招聘研究員
吉松 賢太郎   (株)凜研究所 取締役
米原 徹     東レ(株) 技術センター 顧問


バイオインダストリー大賞 受賞者 略歴と授賞理由(詳細)(敬称略)

◆受賞者 神取 秀樹(かんどり ひでき)
名古屋工業大学 大学院工学研究科、特別教授
名古屋工業大学 オプトバイオテクノロジー研究センター センター長

【略歴】
1984年 3月  京都大学理学部(物理学教室)卒業
1989年 3月  京都大学大学院理学研究科(生物物理学専攻)博士課程修了
1990年 4月  分子科学研究所 博士研究員
1992年11月  理化学研究所 博士研究員
1993年12月  京都大学大学院理学研究科(生物物理学専攻)助手
1999年 1月  京都大学大学院理学研究科(生物物理学専攻)講師
2001年11月  名古屋工業大学大学院工学研究科 助教授
2003年 4月  名古屋工業大学大学院工学研究科 教授
2013年 8月  名古屋工業大学オプトバイオテクノロジー研究センター センター長
2022年 4月  名古屋工業大学 特別教授 (称号付与)

主な受賞・栄誉
2011年    科学技術分野の文部科学大臣表彰 科学技術賞(研究部門)
    「視物質および古細菌型ロドプシンの構造と機能に関する研究」
2015 年    第6回 分子科学会賞 「光応答性タンパク質の分子科学研究」
2017 年    The 3rd Asia and Oceania Society for Photobiology (AOSP) Awards,
     "Spectroscopic study of photoreceptive proteins"
2019 年    第71回 日本化学会賞 「光応答性タンパク質の赤外分光研究と機能開拓」
2020 年    第51回 内藤記念科学振興賞 「光遺伝学ツールとしての新規ロドプシンの開発」
2020 年    第73回 中日文化賞 「光遺伝学ツールであるロドプシンの研究」
2021 年    第40回 島津賞 「ロドプシンのメカニズム研究と新規ロドプシンの発見・創成」
2021 年    紫綬褒章 生物物理学研究功績
2024 年    第6回 日本光生物学協会賞 「ロドプシンの分子メカニズム研究」

【受賞業績と受賞理由(詳細)】
「ロドプシンの構造と機能の解明に基づく視覚再生への展開」
  神取秀樹氏の研究は、我々の視覚機能や微生物の光応答に重要な働きを持つ動物および微生物ロドプシンについて、ロドプシンが光を受けると何が起こるのかを、超高速分光法や赤外分光法を用いたオリジナルな分光解析によってメカニズムを解明し、失明者のための視覚再生遺伝子治療薬への道を拓いたものである。
  神取氏は、光駆動ナトリウムポンプや内向きプロトンポンプ、酵素ロドプシン、ヘリオロドプシン、光感度の高い新規チャネルロドプシン(GtCCR4)といった新たなロドプシン機能の発見、さらにはプロトンポンプとクロライドポンプの機能転換や光駆動カリウムポンプ、光駆動セシウムポンプ、キメラロドプシンといった新規機能の創成を実現することで、ロドプシンをツールとして誕生した光遺伝学の視覚再生への課題解決に向けた応用研究を展開している。
 具体的には、視細胞が壊れて失明に至る国指定の難病である網膜色素変性症に対して、人工網膜やiPS細胞を用いるのではなく、ロドプシンを用いた遺伝子治療が世界的に期待を集めている。しかしながら光遺伝学的視覚再生と呼ばれる革新的治療法において、既知のチャネルロドプシンの光感度が十分ではなく、室内光の環境では働かないという問題点が明らかになってきた。我々の視物質ロドプシン自体はイオンを運ばず、Gタンパク質の活性化を介した2段階の増幅過程により視細胞のチャネルが制御される結果、我々は暗所でも、ものを視ることができる。一方、チャネルロドプシンの光応答には増幅過程が存在しないため、暗いところで働くための感度が十分ではなかった。
 神取氏が発見した新規チャネルロドプシン(GtCCR4)の光感度はチャネルロドプシンの中で最高レベルのものであり、ベンチャー企業との共同研究によってツールとしての最適化が進んでいる。さらに、視物質ロドプシンは11シス型のレチナールを持っており、光でall-trans型に変化して外れてしまうため、視物質ロドプシンそのものはツールとして視覚再生に使うことができない。イオンを運ぶチャネルとは全く異なる発想に立ち、微生物と動物のハイブリッドとして神取氏が創成したキメラロドプシンは、繰り返し使える上にGタンパク質を活性化することで高い光感度が期待できる。キメラロドプシンに関しても別のベンチャー企業により研究開発が進められている。
 ロドプシンは光遺伝学のツールとして脳機能解明に期待されているが、視覚再生以外にも神取氏が創成した内向きプロトンポンプは、PhotonSABERと呼ばれる運動や学習を解析するためのツールとして既に使われ始めている。また、初めてセシウムイオンを一方向に輸送するツールとなった光駆動セシウムポンプは環境中の放射性セシウム除去に活用されることも期待されている。
 神取氏の研究は視覚再生に留まらず、高い社会的インパクトをもたらす基盤を築いた卓越した業績といえる。国内外のバイオインダストリーの発展に大きく寄与するものであることから、バイオインダストリー大賞にもっとも相応しいと選考委員会にて高く評価され、第8回バイオインダストリー大賞を贈呈するに至った。


バイオインダストリー大賞 特別賞 略歴と授賞理由(詳細)(敬称略)

◆受賞者 河内 幾生(かわうち いくお)
(一社)再生医療イノベーションフォーラム 標準化委員会 委員長

【略歴】
1987年    慶應義塾大学理工学部応用科学科 卒業
1989年    慶應義塾大学大学院理工学研究科応用化学専攻 修了
1989年    富士写真フイルム(株)(現 富士フイルム(株))入社
2018年    (一社)再生医療イノベーションフォーラム 参画
2019年    (一社)再生医療イノベーションフォーラム 標準化委員会 委員長

主な受賞・栄誉
2012年    全国発明表彰 経済産業大臣発明賞
2017年    文部科学大臣科学技術賞(開発部門)
2018年    矢上賞

◆受賞者 菖蒲 弘人(あやめ ひろひと)
(一社)再生医療イノベーションフォーラム サポーティングインダストリー委員会 副委員長

【略歴】
2002年    東京理科大学理学部化学科 卒業
2008年    東京医科歯科大学医歯学総合研究科専門課程 修了 博士(学術)
2008年-   大日本印刷(株) 入社(現在に至る)
2018年    (一社)再生医療イノベーションフォーラム 参画
2023年- (一社)再生医療イノベーションフォーラム サポーティングインダストリー委員会 副委員長

◆受賞者 柳田 豊(やなぎた ゆたか)
(一社)再生医療イノベーションフォーラム 事務局 事務局員

【略歴】
1979年    東京大学理学部生物化学科 卒業
1984年    東京大学理学系研究科生物化学専門課程 修了 博士(理学)
1984年-1986年    Cornell大学 ポストドクトラルフェロー
1986年-1987年  長崎大学医学部原爆後障害医療研究施設 助手
1987年-2005年  山之内製薬(株)(現:アステラス製薬(株))
2005年-2022年  アステラス製薬(株)
2022年-  (一社)再生医療イノベーションフォーラム

【受賞業績と受賞理由(詳細)】
「再生医療周辺産業の国際標準開発とそれに基づく製品認証制度の構築」
 河内幾生氏を代表者とする(一社)再生医療イノベーションフォーラム(FIRM)の活動グループは、ISO/TC 276/WG 4(Biotechnology - Bioprocessing)において、再生医療の周辺産業分野である製造補助材料、製造装置、消耗品、包装材料、輸送に関わる国際標準を主導して開発し、対象製品・サービスの供給者及び使用者それぞれに対する要求事項を明確に規定し、さらに、ISO/IEC 17067(適合性評価−製品認証の基礎及び製品認証スキームのための指針)を踏まえた認証スキームオーナー及びISO/IEC 17065(適合性評価−製品,プロセス及びサービスの認証を行う機関に対する要求事項)に適合する認証機関をFIRMの中に設立して、これらの標準群に基づく製品認証制度を構築し、再生医療の産業化促進策を講じてきた。
 再生医療等製品のグローバル市場規模は、20年内に10兆円を超える規模に成長すると予想され、同様にそれを支える周辺産業もグローバルで巨大な市場形成が期待されている。再生医療等製品及び特定細胞加工物等の開発は科学的革新の最前線にあり、これら治療用細胞の製造者は製品ライフサイクル全体を通じて製品の品質を確保・維持することが必要となり、国際標準化は、その目的は、「与えられた状況において最適な秩序を得ること」であり、対象とする製品・サービスの使用者に対して安心感を与え、認証に基づく製品・サービスの訴求により、日本製品のグローバルな導入促進に貢献できる。治療用細胞の製造者は、承認申請時に系統的な説明が可能となることから、開発後期に周辺産業製品の問題が発覚して後戻りするリスクも抑制され、開発期間の短縮に有効となる。供給者か使用者かといった対象者を明確にすることで、供給者の要件が明確になり、認証制度を設計する際に妥当性のある認証スキームを構築することが可能となっている。特に、ISO 21973(治療用細胞の輸送に関する一般要求事項)及びISO 20404(治療用細胞を含むパッケージのデザインに関する一般要件)は日本のメンバーがプロジェクトリーダーとして産学連携で開発された。
 具体的には、製品・サービスの供給者は、自身の製品が標準の要求事項を満たしていることが公平な第三者により証明されるため、製品・サービスの訴求が容易になる。また、使用者、すなわち治療用細胞の製造者は、要求事項を満たしていると証明された製品を選別し利用可能となる。規定要求事項を満たしていると信頼を与えられた製品・サービスを選択することが可能となり、調達・製品開発・リスク管理等の業務を効率化するとともに、規制当局や医療機関等に対して自社の取組みを系統的に説明することが可能となった。また、国際的にコンセンサスを得た標準の要求事項に対して、現状の活動とのギャップが明確となり、それを埋めようとする活動にとっても有効である。
 製品認証は、ISO/IEC 17065等の国際規格に規定、国際的にも認知され、多岐にわたる分野において「認証ビジネス」が構築されている。一方、発展途上である再生医療分野の周辺産業の製品・サービスに対しては、製品認証を推進する国が無い中、日本のチームが世界に先駆けて、産業化と国際標準の実装の促進につながる制度として構築した。
 ISO/TC 276 国際会議の場で各国に本制度を紹介して制度の認知・共有を進めて本制度を広げ、再生医療の基礎研究から実用化検討、製造化まで一貫性を持たせることを可能とし、再生医療の産業化の促進とともに、国内の対象製品・サービスの輸出促進につながると期待できる。日本が本分野における国際標準の開発・実装の中心的役割を担っていることが確固たるものになりつつあり、再生医療産業化に向けて非常に期待が高まっている。
 この業績は、再生医療の産業化促進に極めて有効な施策であり、今後の国際競争力の強化も期待できる。これまでなかった医療の支援技術に基づく国際標準化を進め、全く新しいスキームに基づいて新規な価値を創出した点においてバイオインダストリー大賞 特別賞に相応しいと評価された。

■ニュースリリースPDF版(776KB)→ award_release_taisho2024.pdf

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