第7回バイオインダストリー奨励賞受賞者の紹介
奨励賞受賞者10人からメッセージをいただきました
景山 達斗(神奈川県立産業技術総合研究所 有望シーズ展開事業 常勤研究員)
「再生医療や創薬のための毛包オルガノイドの構築」
この度は、バイオインダストリー奨励賞を賜り大変嬉しく思います。これまでにご指導いただいた先生方、一緒に研究を進めてきた学生たち、その他関係者の皆さまに心より感謝を申し上げます。私は、生体外でほぼ100 %の効率で毛髪を再生できる培養系(毛包オルガノイドと呼ぶ)を開発しました。現在、毛包オルガノイドを移植組織として利用する毛髪再生医療の研究開発を進めるとともに、毛包オルガノイドをスクリーニングツールとして利用する毛髪疾患(脱毛症や白髪)の治療薬開発の研究を進めています。この受賞を励みに研究開発を進め、私の理想とする"毛髪の悩みのない世の中"を実現できるよう尽力してまいります。
加藤 創一郎(産業技術総合研究所 生物プロセス研究部門 上級主任研究員)
「電気化学活性を持つ微生物の生理・生態学的解析とその応用利用」
この度は、バイオインダストリー奨励賞という栄誉ある賞を頂戴し、誠に光栄に思います。ご審査いただいた先生方をはじめ、関係者の皆様に厚く御礼申し上げます。私は、微生物のエネルギー代謝の特殊性、多様性に着目し、新規代謝機構を有する微生物の発見・分離培養、代謝機構解明、生態学的意義の解明、およびそれらの代謝を利用した応用研究に取り組んでまいりました。その中でも今回、電気化学活性を持つ微生物を対象とした基礎および応用研究について高くご評価いただきました。本研究は省エネ/創エネ型排水処理技術、新しいバイオ二酸化炭素資源化技術にもつながるものであり、今後本技術の社会実装に向けた取組みにも邁進する所存です。
加藤 晃代(名古屋大学 大学院生命農学研究科 助教)
「翻訳効率を向上させるペプチドに関する研究」
この度はバイオインダストリー奨励賞にご選出いただき、大変光栄に存じます。審査員の先生方、これまで本研究に携わってくださった皆さまに感謝申し上げます。私は、微生物によるタンパク質生産や、産業利用を目指した研究を行っています。本研究では、大腸菌や酵母で生産困難なタンパク質の生産量を簡単に増大できる短いペプチド配列を見いだし、それが翻訳効率を向上することや、翻訳を停止してしまうアレストペプチドの効果を打ち消せることを明らかとしました。自由自在かつ簡単にタンパク質の生産量を増大できる技術開発や産業への実用化を目指し、研究を進めていきたいと考えています。
北島 正章(北海道大学 大学院工学研究院 准教授)
「下水中ウイルスの検出技術基盤の確立とCOVID-19下水疫学調査の実用化」
このような栄誉ある賞を賜り大変光栄に存じます。共同研究者の方々、学生の皆さん、ご指導・ご支援をいただいている全ての皆さまに感謝申し上げます。本研究では、下水中の新型コロナウイルスの高感度検出法および変異解析技術を開発し、COVID-19 下水疫学調査の実用化に成功しました。自治体や東京オリンピック・パラリンピック選手村での実装が実現し、社会の中で感染動向把握などに役立てられています。これは、学術研究が塩野義製薬㈱などの民間企業との産学連携を経て実用化・社会実装という形で結実したものであるといえます。今後は、感染症に強い社会の構築の一助となるよう、さらなる技術開発と下水疫学調査の普及に努めてまいります。
栗原 新(近畿大学 生物理工学部 准教授)
「日欧ヒト腸内常在菌叢における最優勢種のハイスループット培養・解析法の開発と応用」
この度は奨励賞を賜りまして、大変光栄に存じます。選考委員会およびこれまでご指導いただいた先生方、ならびに共同研究者の皆さまと研究室の学生さんに、心から御礼申し上げます。私たちは、日欧のヒト腸内に常在する細菌叢における最優勢80 菌種の中の入手可能な60 菌種のうち、51 菌種(85 %)を同時に培養する手法を開発しました。次いで、これら51 菌種および代表的な善玉細菌を96 穴プレート上でハイスループットに培養し、これらの細菌の様々な物質に対する資化能および代謝産物を解析可能な系を構築しました。本培養システムを、バイオインダストリー業界の方々に広く知っていただき、腸内細菌に関 連する産業の発展に貢献できればと考えております。
小松 徹(東京大学 大学院薬学系研究科 助教)
「Proteoform レベルの酵素機能網羅的解析に基づく疾患診断技術の開発」
この度はバイオインダストリー奨励賞を賜りまして、大変光栄に存じます。この場をお借りし、厚く御礼申し上げます。私たちは、血液中、生体サンプル中に存在する酵素の活性を1 分子ごとに網羅的に解析する技術開発を進め、臨床検体の解析を通じた疾患と関わる酵素の機能異常の理解に基づく疾患の早期診断技術の実現を目指した研究を進めてきました。本研究を進めていく過程において、要所要所で多くの先生方との共同研究の「縁」があり、ここまで研究を進めてくることができたことに改めて感謝するとともに、このつながりを大事に、さらに技術を発展させ疾患の早期診断につながる疾患の理解の深化に貢献していくよう、一層励んでいきたいと思っています。
白崎 伸隆(北海道大学 大学院工学研究院 准教授)
「浄水処理工程におけるヒトカリシウイルスの未知動態の解明と処理技術の高度・高効率化」
この度は、栄誉あるバイオインダストリー奨励賞を賜り、大変光栄に存じます。選考委員会の皆さま、ご指導・ご助言をいただきました先生方、共同研究者の皆さま、研究を支えてくれた学生の皆さんに心より御礼申し上げます。本研究では、これまで知見がほとんど得られていなかった浄水処理工程におけるヒトカリシウイルス(ヒトノロウイルスおよびヒトサポウイルス)の処理性を詳細に把握するとともに、ウイルス処理に有効な新たな水処理用凝集剤を開発することに成功しました。今後は、将来を見据えた持続可能な水道水利用・水循環におけるウイルスのリスク管理・制御の枠組みの構築を目指し、研究・技術開発に取り組んでまいります。
鈴木 洋(名古屋大学 大学院医学系研究科 教授)
「遺伝子制御技術を最適化する数理シミュレーションの構築」
この度は大変名誉あるバイオインダストリー奨励賞を賜り、誠に光栄に存じます。これまでご指導・ご支援いただきました皆さま、共同研究者の先生方(CRISPR の最適化については、特に九州大学の川又理樹先生)、そして、研究室の皆さまに心より御礼申し上げます。本研究では、分子生物学・生化学のアプローチと数理シミュレーションを融合することにより、RNA 干渉(マイクロRNA)とCRISPR/Cas9システムという遺伝子制御技術の2 大分子ツールを最適化することに成功してきました。今後、さらに新たな遺伝子制御の分子ツールの開発とゲノム・遺伝子・RNA の高解像度の機能理解に基づく新しい医学の展開に挑戦していきます。
古澤 之裕(富山県立大学 工学部 准教授)
「腸内細菌を介して免疫機能を調節する食物繊維の発見と疾患予防への応用」
この度はバイオインダストリー奨励賞を賜り大変光栄に存じます。選考委員会の先生方をはじめ、これまでご指導・ご支援いただいた皆さま、共同研究者や研究室の学生の皆さまに心から御礼申し上げます。本研究では腸内細菌による免疫調節に着目し、食物繊維の不足が腸内細菌を介した免疫疾患発症の原因となることを発見しました。さらに、多種多様に存在する食物繊維の中から、宿主の免疫機能を正常に保つ食物繊維種を同定しました。今後は、動物実験で免疫調節作用を同定した食物繊維のヒトでの影響を評価するほか、腸内細菌叢をコントロールし健康増進に寄与する新たな機能性素材の探索とその作用メカニズムの解明に取り組んでまいります。
三上 統久(大阪大学 免疫学フロンティア研究センター 特任准教授)
「機能的で安定な誘導性制御性T細胞の研究開発」
この度は第7 回バイオインダストリー奨励賞受賞の栄誉を賜り、恭悦至極に存じます。私は志学より一貫して免疫学に傾倒し、学位取得後は大阪大学および京都大学におきまして制御性T 細胞(Treg)の研究に従事してきました。その中で高機能安定型誘導性Treg細胞を創造し、その免疫抑制能力を細胞治療に利用する研究を進めた後に、再生医療等製品としての臨床応用を実現すべく大学発ベンチャー企業 レグセル㈱の研究開発代表として臨床開発も推進してきました。今後もTreg 細胞治療の臨床応用を通じた自己免疫疾患治療への貢献を遂げるよう邁進していく所存です。以後とも鞭撻激励の程、よろしくお願い申し上げます。
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