個人遺伝子情報の研究や実用化を進めるなかで、日本では個人のプライバシーを守るために国や研究団体がガイドラインを設けています。今後、法律的な整備も重要なテーマになるでしょう。
わたしたちも、ひとりひとりが遺伝子問題に関心を持ち、知識を高め、十分に議論していくことが重要になってきます。

知る権利と知られない権利
 この本のなかで繰り返し述べてきたように、遺伝子研究は個人のプライバシーを常に念頭に置いて進めて行かなければなりません。
 かつて、輸血を目的に集められた血液を、提供者に無断で遺伝子解析していたという問題が発生しました。病院などでも提供者に自分の血液などを研究に使うことが知らされていなかったケースもありました。提供者たちに事前に利用目的や情報の活用法を知らせていく必要があります。
 もちろん、個人遺伝子情報の利用について制限を厳しくしすぎれば、研究・開発に支障が生じてしまいます。自分があるいは研究者が個人遺伝子情報を「知る権利」と提供者として「知られない権利」。この2つの権利のバランスを上手に取り、個人遺伝子情報を円滑にそして柔軟に活用していくことが望ましいのです。

個人遺伝子情報を活用するためのガイドライン
 遺伝子診断については、とりわけさまざまな議論がなされています。たとえば、髪の毛が1本あれば、その人の個人遺伝子情報を引き出せるため、知らない間に勝手に遺伝子を調べられていたなどといった事態も発生しかねません。本人が情報の流れを特定できる形でのみ診断を受けられるようにするなど、遺伝子診断が普及するためにはさまざまなしくみを検討していかなければならないでしょう。
 欧米では、すでに個人遺伝子情報を保護する法律が施行されている国もあり、国を挙げて遺伝子とプライバシーの問題に取り組みはじめています。日本では、厚生労働省、経済産業省、文部科学省の3省による指針や研究者レベルでのガイドラインをつくっています。
 たとえば、日本人類遺伝学会などが策定したガイドライン案では、遺伝子解析などで得られた個人情報は守秘義務に従って管理されるといった事項が盛り込まれており、研究者の心構えをきびしく示しています。

大切な個人遺伝子情報
 こうした研究者や国の取り組みとともに欠かせないことは、わたしたちが個人遺伝子情報の大切さを理解するということです。個人遺伝子情報に対してわたしたちが無関心では、いくらしくみを整えてもその意味は半減します。
 たとえば、知らない人が勝手に自分の写真を使っていたら決して気分のいいものではありませんし、迷惑なことも生じます。個人遺伝子情報を無制限に利用されると、1人だけでなく、家族にまで問題がおよぶこともあります。
 わたしたちひとりひとりの顔や体格が異なるように、遺伝子にも個性があるのです。いや反対に遺伝子が個性を支えているともいえるのです。
遺伝子に対する理解を深め、遺伝子を大切にすることは、自分が自分らしく生きることを愛することでもあります。生命が持つ多様で豊かな個性もより深く実感できるはずです。こうした生命への関心と畏敬の念が、愛情豊かな思いやりの心を育て、個人遺伝子情報の有効な活用への第一歩となるのです。

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