メタボライトセンサ構築技術
梅野 太輔
千葉大学大学院工学研究院
教授
技術紹介
梅野 太輔
千葉大学大学院工学研究院
教授
進化工学的手法を用いて任意の代謝物(メタボライト)のセンサを開発すること、それを用いて生合成経路やスマートセルの開発と改良
細胞が持つ物質生産能力を最大限に引き出した「スマートセル」を構築するためには、宿主ゲノムの組織的な変異導入による多くの宿主ライブラリを作製し、試す必要がある。また、導入する生合成経路も、1つ1つの遺伝子の発現レベルや用いる遺伝子の種類などの試行錯誤が重要となる。宿主ライブラリと生合成ライブラリのかけ合わせによって得られる膨大なそれぞれの検体に対して、特定の代謝物の蓄積レベルを調べることができるならば、個々の目標に対するスマートセル構築を飛躍的に高速化できる。我々は、(1) バイオセンサの高速進化工学プラットフォーム1、2)、(2) 生合成酵素をバイオセンサの分子認識素子として利用する手法3)、の2つを組み合わせ、様々な代謝物に対するメタボライトセンサを開発する技術4)を開発する。 バイオセンサは、転写因子の制御下に蛍光遺伝子などのレポータ遺伝子を配置したものを基本とする。遺伝子発現レベルを出力とすることにより、進化工学を簡単にする。我々は、独自に開発した転写因子の高速で高効率な進化工学手法を開発した1-3)。この手法の特徴は、出力ONの状態とOFFの状態のどちらをも、すべて液体操作のみで、短期間に選抜できることにある。これは、多くのバイオセンサの開発を、マルチウェルプレートを用いて同時に実施することを可能とする。
スマートセルプロジェクトにはさまざまな開発目標があり、それぞれ、標的となる代謝物が異なる。自然界には無数に存在する代謝物すべてにセンサを用意することは困難であった。本研究では、生合成酵素をセンサ素子にできるセンサの設計技術を開発し、これまで作れなかった様々な代謝中間体を標的としたセンサの製作が可能となった。
図.メタボライトに対するバイオセンサの開発サイクル
本プロジェクトでは、宿主細胞に再構築された様々な生合成経路の中間体に対するバイオセンサのオンデマンド開発を実施している。本技術で作製したセンサを用い、スマートセル開発サイクルで生み出される様々な宿主・生合成ライブラリのなかから、超高速な優れた変異体の選抜・取得が可能となった。
1)Y. Tashiro, et al.: Nucleic Acids Res., 39, e12(2011) 2)M. Tominaga, et al., PLOS ONE, 10, e0120243(2015) 3)K. Saeki, et al., ACS Synth. Biol., 5, 1201~1210(2016) 4)Y. Kimura, et al., ACS Synth. Biol., 9, 567~575(2020)
特許第5959127号 特許第5904494号(US9、315、816) 特許第5757608号 特願2018-057314
最終更新日:2022年11月14日 12:50