高精度メタボローム解析技術
蓮沼 誠久
神戸大学先端バイオ工学研究センター
個別技術紹介
蓮沼 誠久
神戸大学先端バイオ工学研究センター
スマートセル開発に必要な質の高い(高再現性)メタボロームデータを超高速に提供する。ロボットによる高精度な多検体前処理と網羅性高いLC-MS分析法により、物質生産に適した培養条件や細胞の把握、代謝生合成経路のボトルネック反応の同定を実現する。細胞の物質生産能力と遺伝子改変の因果関係を明らかにする。
メタボローム解析は、細胞内に存在する多様な代謝物の蓄積量(プールサイズ)を一斉に明らかにする技術である。メタボロームデータには、細胞の生育環境や遺伝的背景が反映されるため、メタボローム解析を行うことで物質生産に適した培養条件や細胞を知ることが可能になる。
解析の工程は、細胞懸濁液から細胞内代謝物を抽出する前処理工程、LC-MS/MS等により代謝物の量を測定する工程、データ解析工程からなる。従来、前処理工程は人手による煩雑な作業でデータのばらつきを発生させていた。そこで、この工程を完全ロボット化し、人間の20倍以上の処理速度と熟練者を上回る再現性を実現した。
前処理後の測定については、イオンペア剤を添加しないLC-MS/MSシステムを構築してS/N比を向上させた。微生物スマートセルの設計に必要な代謝物186成分の分離・検出を可能にしている。
メタボローム解析では試料ごとに多種の代謝物の同定、相対定量を行うため、データ処理量が膨大になる。そこで、クロマトグラムからのピークピッキングを支援し、解析結果を代謝マップ上に投影する情報解析システムを整備している。
図1.メタボローム解析用自動前処理ロボット
図2.スマートセル設計に必要な代謝物の代謝経路への投影例
当該技術の開発を通して、再現性の高いメタボロームデータを大量に得ることにより、ブラックボックスだった生産と代謝の因果関係(代謝制御メカニズム)が明らかになり、解析結果を組み込んだDBTLサイクルの開発が可能になる。代謝制御メカニズムの解明は、画期的な生産株(スマートセル)と生産方法の知財化の際に極めて有用な情報を与える。本手法は細胞外に分泌される代謝物の網羅的解析にも応用できるため、バイオ生産過程の生産株の評価(物質収支の算出等)においても有効である。
1) Vavricka, C.J. et al.: Trends in Biotechnology, 38(1), 68-82(2019)
2) Hasunuma, T. et al.: ACS Synthetic Biology, 8(12), 2701-2709(2019)
3) Vavricka, C.J. et al.: Nature Communications, 10(1), 2336(2019)
4) Hasunuma, T. et al.: Metabolic Engineering, 48, 109-120(2018)
特願2018-134171、特願2018-134174、特願2018-134169、特願2018-134177、特願2018-134179
最終更新日:2022年11月14日 12:42