技術活用事例
Application Examples
使用した技術
実施機関
旭化成ファーマ(株)、(国研)産業技術総合研究所
研究開発のゴール
コレステロールエステラーゼの生産能力を引き上げたバークホルデリア・スタビリススマートセルを構築する。
目的
病院での診察や健康診断では、健康状態のチェックや体調不良の原因を調べる検査、さらに治療効果を確認するといった用途で多くの体外診断用医薬品が使用されている。例えば血中コレステロールを測定する体外診断用医薬品では、コレステロールエステラーゼという酵素を用いて体内のコレステロール濃度を測定するのが一般的である。
コレステロールエステラーゼは、微生物のバークホルデリア・スタビリス(Burkholderia stabilis)などから菌体外に分泌・生産されることが知られているが、この野生株におけるコレステロールエステラーゼの分泌は複雑に制御されていることから、従来法に基づいた大腸菌を宿主とした遺伝子組換え技術による高生産化は困難で、野生株を育種する古典的な方法での高生産化が試みられてきたのが実情である。しかしそのような育種法を用いてもその生産量は野生株の約2.8倍までしか上昇させることができなかったため、育種法に比べ、より国際競争力があり低コストで高い生産効率が見込まれる新たな技術の開発が求められている。
結果・成果
まずバークホルデリア・スタビリス野生株の全ゲノム解読を行い、ゲノム上にコードされている遺伝子を特定した。その結果、野生株は三つの環状染色体を持ち、それらの染色体に6,764個の遺伝子がコードされていることを発見した。次に、複数の条件で培養した菌体からRNAを抽出し、次世代ゲノムシーケンス解析により各遺伝子の転写量を算出し、得られた各遺伝子の転写量情報を基に、培養条件や培養液組成の変化に影響されず、構成的に遺伝子を強く発現制御するプロモーター候補を九つ選定し、各候補の配列が発現量の異なるプロモーターとして機能することを発見した。
次に、スマートセル技術を用いた宿主の改良に取り組み、コレステロールエステラーゼの生産能力向上に寄与する、従来は機能が不明であった特異的な遺伝子を発見することに成功した。
構築した新規プロモーターを利用した発現技術と構築した改変型宿主を組み合わせることにより、コレステロールエステラーゼの分泌生産量が野生株の30倍以上に向上することを発見し、従来の育種法では解決できなかった高生産型スマートセルの構築に成功した。
これにより年間に使用する培養量と製造回数を削減しても従来と同量のコレステロールエステラーゼ生産が可能となり、結果として生産工程における電力消費量をCO2排出量で換算すると年間約23トンの削減効果(従来比約96%削減)が期待できる。このスマートセルで生産したコレステロールエステラーゼを早期に事業化し、高機能な化学品や医薬品原料などを生産する「スマートセルインダストリー」の実現を目指す。
この研究で得られたデータ
プロジェクト(コレステロールエステラーゼの生産性向上による有効性検証)
- NITE生物資源データプラットフォーム(DBRP)から提供(制限公開データを含みます)
参考文献
Konishi, K. et al.: Genome Announc, 5(29), e00636-17(2017)
Yoshida, K. et al.: Biosci Biotechnol Biochem, 83(10),1974~1984 (2019)
最終更新日:2022年11月14日 12:40