2024 VOL.82 NO.2
巻頭言
・人財は一日にして成らず -バイオ製造人材の育成とは-(大政健史)
目で見るバイオ
・世界最小サイズの発光酵素picALuc(大室有紀)
総説
・キノコに関する天然物化学 -新たな供給源、Fruiting liquid-(河岸洋和)
要旨
キノコは、菌糸から子実体、子実体から胞子、胞子から菌糸、という生活環を持っている。キノコは子実体発生の前に菌糸体表面から液体を分泌する。筆者は、この液が子実体(fruiting body)の発生に深く関わっていると考え、fruiting liquid(FL)と命名し、研究を開始した。その結果、ヤマブシタケFLとクリタケFLから新規物質を得ることに成功した。そして、それらのエノキタケに対する子実体誘導活性を証明した。また、その他の生物活性を検討し、低酸素誘導因子(HIF)、がん細胞の増殖や転移に関与する受容体タンパク質Axl、免疫チェックポイント阻害活性を見いだした。HIF、Axl、免疫チェックポイント阻害物質に関しては最近の他のキノコからの物質も紹介する。
・低分子量β-グルカンの抗アレルギー・抗腫瘍活性(岩倉洋一郎)
要旨
β-グルカンには免疫賦活作用や抗腫瘍活性があると考えられており、生薬や機能性食品として用いられてきた。しかし、その作用メカニズムについては良くわかっていなかった。筆者らはβ-グルカンの受容体が Dectin-1であることを初めて明らかにし、Dectin-1を欠損させたマウスを用いることにより、Dectin-1を阻害すると抗アレルギー、抗大腸腫瘍効果があることを見いだした。また、真菌細胞壁を構成する高分子量のβ-グルカンではなく、アンタゴニスト活性を持つ低分子量β-グルカンに抗アレルギー、抗大腸腫瘍活性があることを見いだした。これらの知見は、機能性食品や治療薬の開発に新たな視点を与えるものである。
解説
・マラリア原虫の遺伝子発現がヒト概日リズムと同期する仕組み(田中 寛・北 潔)
要旨
マラリア発症の周期性には日周変動するメラトニンが関わる。今回、筆者らはマラリア原虫の増殖に必須のオルガネラ(アピコプラスト)機能がメラトニンに調節されることを発見し、その阻害による抗マラリア薬開発のヒントを得た。
トピックス
・シアノバクテリアによる物質生産に有用な広宿主域発現ベクターの開発(坂巻 裕・坂田実乃里・前田海成・渡辺 智)
・食品検査に有用な生菌数の電気化学的迅速測定技術(池田 光・床並 朗・西井成樹・椎木 弘)
・ネコブセンチュウは糖輸送機構をハイジャックして根に寄生する(中上 知・澤 進一郎)
・マイクロバイオーム解析からみえた金属腐食過程(若井 暁)
・高効率NAD+/NADHの再生を可能にした直接電子移動型酵素電極(宋和慶盛・白井 理)
・酵母は細胞壁の厚さを調節してアルコール発酵力を制御する(渡辺大輔)
・キチン/キチン結合タンパク質を利用した簡便なタンパク質精製法(加藤俊介・林 高史)
・角膜内皮細胞の配列秩序を定量化する指標の確立と再生医療への適用(山本暁久・上野盛夫・田中 求)
・芋焼酎のメタノール生成に関わる黒麹菌ペクチンメチルエステラーゼの同定(水谷 治)
・PET関連物質および原料製造廃水の嫌気的分解微生物の発見(黒田恭平・成廣 隆)
・細胞外膜小胞を介した異種菌間相互作用による二次代謝産物の生産誘導(吉村 彩・脇本敏幸)
追悼
・「応用から基礎が生まれる」 別府輝彦先生のご逝去を悼む(吉田 稔)
・別府先生を偲んで(三輪清志)
バイオの窓
・クラウドファンディングという体験(渡辺大輔)
産業と行政
・令和6年度バイオ関連予算
バイオコミュニティの現在(2)
・Greater Tokyo Biocommunity(GTB)バイオイノベーション推進拠点(前半)(犬塚隆志・土井俊彦・小河了一・朝比奈 宏)
・希少疾患に対する研究開発環境の変化とドラッグロス(塩谷和昭・児玉耕太)
ヒトゲノム解読20周年記念(3)
・未知微生物を紐解く技術:シングルセルゲノミクスからメタボロミクスへの挑戦(安藤正浩・西川洋平・竹山春子)
AMED「RNA標的創薬技術開発事業」から創薬を目指して(5)
・RNA標的低分子創薬開発に向けたDBとAIシステム(中谷和彦)
国際動向
Food BioPlus研究会
・Food BioPlus研究会主催視察ツアー シンガポールが挑むフードテック革命(吉田和樹)
・「遺伝資源に関するデジタル配列情報の第1回公開作業部会(WGDSI-1)」参加報告(宝来真志・小山直人・野崎恵子・中村英志)
・バイオものづくりに関する国内外の開発・製造の受託機関の現状とバイオものづくりフォーラム(仮称)の設立について(坂元雄二・中川 智)
特集
第7回バイオインダストリー大賞 特別賞受賞業績
・コレステロールエステラーゼ大量生産スマートセルの開発(小西健司・酒瀬川信一・村松周治・安武義晃・田村具博)
この素材!この技術!が世の流れを変えた!
・エクオール含有食品開発と女性ヘルスケアにおける役割(上野友美)
JBAニュース
・新春の集い
・BioJapan 2023主催者セミナー
・ウエットラボスペース供給によるバイオ産業の活性化 ~バイオコミュニティ形成の観点から~