2023 VOL.81 NO.4

巻頭言

・日本におけるフードテックの推進(高木徹男)

目で見るバイオ

・植物の二酸化炭素センシングを見る(高橋洋平)

総説

・酵素がセルロースを非晶化して分解するメカニズムの解明 ─70年にわたる議論に終止符─(五十嵐圭日子・内山 拓)

要旨
自然界において木材腐朽菌(キノコ)は優れた木材の分解者であるが、木材の主成分であるセルロースの生分解機構に関してはいまだに不明なことが多い。特にセルラーゼに代表される加水分解酵素と酸化還元酵素の相乗作用に関しては、詳細が分かっていない。筆者らは、結晶性セルロースの加水分解酵素による分解が、溶解性多糖モノオキシゲナーゼ(LPMO)によって促進されるメカニズムを解明するために生化学的実験、高速原子間力顕微鏡による酵素分子の観察、さらに分子動力学シミュレーションを行った。その結果、LPMOの一種であるAA9Dが結晶性セルロースの表面に酸化的に切れ込み(ニック)を入れると、反応したセルロース分子だけでなく、その周辺のセルロース分子も連鎖的に水和、非晶化し、他の酵素による分解性を高めていることが明らかになった。これにより70年にわたるセルロース分解メカニズムに関する議論に終止符が打たれた。

解説

・がん微小環境における細胞老化随伴分泌現象(SASP)(周 翔宇・羅 智文・高橋暁子)

要旨
生体においてストレスにより生じた老化細胞は、様々な炎症性因子を分泌し、がんの発症や進展に関与する。本稿では、近年筆者らが同定した老化細胞の分泌因子が持つ、がん微小環境における新たな作用について解説する。

トピックス

・腸内細菌由来フェネチルアミンによる宿主セロトニン産生の促進(杉山友太・栗原 新)

・ヒストンデアセチラーゼ(HDAC)阻害剤による植物培養細胞の休眠二次代謝の覚醒(野村泰治・加藤康夫)

・甘草のゲノム解読から明らかになった薬効成分の生合成遺伝子クラスター(Amit Rai・斉藤和季)

・香気性ラクトンによる辛味受容体応答の増強と抑制(小川雪乃・日下部裕子)

・植物の気孔に存在する二酸化炭素センサーの発見(高橋洋平)

・コホート研究による花粉症と腸内細菌叢の関連解析(佐保山友加里・濱里史明・須田 亙・服部正平)

・ブラシノステロイド応答遺伝子を発現制御する転写因子のDNA形状認識機構(宮川拓也・中野雄司)

・欧米交雑ブドウ果実の香り・渋みの多様性とその遺伝的背景(小山和哉)

・自家受粉で重要な「おしべ」と「めしべ」の長さをそろえるペプチドホルモン(打田直行)

・リグナン生合成に関わるメチル化酵素の系統独自的進化(梅澤俊明・小埜栄一郎)

バイオの窓

・「ニューノーマル」な花のある暮らし(中村典子)

特集

この素材!この技術!が世の流れを変えた!
・新規健康素材ヒトミルクオリゴ糖の開発(小泉聡司)

バイオインダストリー奨励賞受賞業績
・生物学的環境技術の効率化に寄与する生物間相互作用の解明と応用展開(簡 梅芳)

・次世代核酸医薬による新規がん治療法の展開(吉見昭秀)

・細胞外で複製し進化する人工ゲノムDNAの開発(市橋伯一)

・広視野高速高解像度2光子顕微鏡の開発と生体脳への応用(村山正宜)

産業と行政

・抗体医薬品の開発・品質管理を支援する抗体標準物質、AIST-MAB(絹見朋也)

・バックキャスティングによるヘルスケア産業のあり方
 ①デジタルヘルス技術の普及に必要なエコシステム(鳥谷真佐子)

 ②欧米の政策から見えてくるバイオエコノミーにおけるヘルスケア産業の方向性(井出寛子)

AMED「RNA標的創薬技術開発事業」から創薬を目指して(1)
・特集を組むにあたって(岸本利光)

・RNA標的創薬技術開発事業について(永牟田雅弘)

Food Bio Plus研究会がめざす課題解決の方向性(2)
・培養肉分野の課題認識(竹内昌治)

・「新規開発食品」の受容拡大を模索する ~消費者との対話の深化に向けて~(石川伸一)

・社会のニーズに応えるために(清水弘和)

高度バイオ製造人材育成はわが国の喫緊の課題(2)
・培養技術者を過重労働から解放する!!バイオものづくりラボの取組み(長森英二)

・生体双対経路解明の計算生物学~細胞シグナル伝達の原理について(鈴木 貴)

・考察:バイオDX(渡辺恵郎)

・日本のバイオ産業発展に向けた若手ダイナモ人財の戦い方(私の場合)(松田朋子)

・遺伝子組換え微生物のカルタヘナ第一種使用に向けた技術開発動向(廣田隆一)

JBAニュース

・2022年度(令和4年度)全国バイオコミュニティ連絡会・バイオコミュニティ推進官民連携プラットフォーム合同会議

バイオエンジニアリング研究会
・「国内の製造業回帰への道と技術のインテグレーション」報告

・JST大学発新産業創出基金事業「可能性検証」の活用のすすめ

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